「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

観劇!尾上松也自主公演「挑む」

前回のブログで書いたように、連戦連敗だったチケとりに何とか最後に滑り込み。やっと手に入れた「挑む」のチケット握りしめて、21日下北沢へ。久々の本多劇場で、駅から徒歩2分のはずが、右往左往で10分余。

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挑むのチラシ。いいですねえ!

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着きました!本多劇場

 

 

よかった「挑む」赤胴鈴之助

10回目にして完!の自主公演「赤胴鈴之助」。それはもう、最初から見守ってきたファンからすれば、感無量涙涙の舞台であったろうと思う。しかしながら初めての人、いや自主公演どころか歌舞伎なるモノ初めての人であっても、これは面白い!いいぞいいぞ!と大いに盛り上がれる演目となった。

なぜそんなことが可能になったのか。それは愛がてんこ盛りだったからだ。愛というと気恥ずかしいかもしれないが「松也が大切にしているもの」とも「オマージュ」とも「リスペクト」とも言い換えられるだろう。

大切にしているものをしっかりと持っている人って、強いな。と私は感じた。

父、尾上松助に対するオマージュ

松也の父、尾上松助は、歌舞伎界の出ではなく、一般家庭の出であったが二代目尾上松緑に師事。ところが松助は、松也がまだ20のときに亡くなってしまう。後ろ盾がなくなった松也はなかなかお役ももらえず、2009年から自主公演で腕を磨き、他の演劇にも出ながら、少しずつ歌舞伎座でも役がもらえるようになり、今がある。

その父松助が幼少期にテレビで演じた(1957年~59年)という「赤胴鈴之助」を新作歌舞伎にしたいという夢が一つあった。

本多劇場のロビーには松助の写真と、わずかに残っているという松助が「赤胴鈴之助」を演じている写真が花とともに飾られた。赤胴鈴之助といえば昭和29年から昭和35年まで続いた漫画で、今の若い人は知らないだろうし、私とて、名前は知っているものの原作を見て楽しんだ世代ではない。アニメの作品を選ぶにしても、もっと今時のものを選ぶことだってできたと思うのに、父ゆかりの「赤胴鈴之助」を選んだということにグッとくる。

原作へのリスペクト

松助への想いとともに「赤胴鈴之助」原作へのリスペクトも忘れない。
赤胴鈴之助」ってこんな漫画だったんだよというオマージュなのか、上演中「赤胴鈴之助」のテーマソングとともに(歌は松也。コーラスは蔦之助と國矢)アニメがスクリーンに流れた。それもよかった。だって漫画の鈴之助、すごくかわいいんだもの。

生田斗真に対するオマージュ

そしてもう一つの松也の夢が、学生時代からの親友である生田斗真と歌舞伎をやりたいというものだった。

なんでも二人の出会いは1997年、二人が中1のときだそうだ。舞台で一緒になり、その後堀越高校で一緒となったという。生田斗真は、松也を通して歌舞伎が好きになり、尾上菊之丞を紹介してもらって日本舞踊を習っていたというから、今回の見事な演技も納得だ。なんでこんなにうまいの?と思った人も多かったのでは?それは一朝一夕のものではなかったのだ。

「今も稽古を続けており、古典芸能を経験することで歌舞伎の見方も変わってき、どんどん歌舞伎が好きになり、日本の文化が好きになって、そこに携わる仲間が誇らしくなった」という斗真。(パンフレットより)
その思いにこたえたかったという松也。

どうです、泣けませんか?あたしゃ泣けました。これはパンフレットに書かれていたことで、パンフレットもまた充実しておりました。自主公演1回目からの画像も豊富で、古くからのファン涙。読むところも多くて、それだけ思いが強いのだなあと感じられた。

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中身充実のパンフレット

 

歌舞伎に対する愛

「斗真を出すならできるだけ歌舞伎本来の形で演じてもらおうと思った」という松也。すごくチャレンジングだが、挑む価値のある挑戦だ。

そして脚本は、ナウシカ歌舞伎も手掛けた松竹の戸部さん。松也と同い年だそうで、熱い新作作品が出来上がった。

この作品では、長唄あり、お囃子あり、竹本あり、太鼓もあったなあ(これからの新作、和太鼓は欠かせないかも。5月のコクーン夏祭でもいい働きをしていた)
だんまりあり、飛び六方あり、早替わりあり、スローな立ち回りあり、スピーディーな立ち回りあり。初めて歌舞伎を観る人が「なにこれ。歌舞伎?超おもしろいんだけど!」と思う仕掛けがいっぱいだった。とべすん、ありがとう!

チーム松也に対する愛

初回の自主公演から共に走ってきた仲間は、澤村國矢、市川蔦之助、尾上菊次。

また松助亡きあと、どこにも行かずに松也の元に残った弟子3人、松五郎、隆松、徳松。特に徳松は子役の時からいつも一緒だそうだからすでに30年松也を支える「ママ」なのだ。


右も左もわからぬ初回の自主公演から、10回成し遂げるまでにかかった時間は14年。
支え続けたチームメートに対するオマージュは、作品の中にも表れた。

 

作品中莟玉演じるさゆりは、蔦之助演じる陽炎座の陽炎太夫の大ファンという設定。初めて楽屋で会える陽炎太夫にモジモジしつつ、でも「あのお役のこんなところが素敵でした。またあのお役のこれもよかったですよね~」とオタクさながらに熱弁をふるうところがあるのだけれど、それは全部今まで実際に蔦之助が自主公演の中で演じてきたお役。

これってすごいと思いませんか?全然知らない人たちは「わ~わかるオタク愛~!キャッハ~」と喜んでいる一方で、1回目から自主公演を観ているコアなファンにとっては「そう!そうだった!ツータン(蔦之助)、それもよかったよね。あれもよかったよね」と涙うるうる案件なのだ。

私は残念ながら今まで見ていないので「ウケる~~」と笑っていた側の方だったが。

このほかにも細かい仕掛けはいっぱいあったのだろう、たぶん。古くからのファンも、初めて歌舞伎を観る人も、生田斗真目当てで来たジャニーズファンも楽しめるというのは、作り手側の自己中心的な思いだけではできないわけで、細部まで心配りのある思いのいっぱい詰まった作品だったと思う。

千穐楽には、それぞれが一言ずつ挨拶をして、20分にも及んだという。(ミタカッタ)

 

それぞれのお役

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始まる前。ワクワクドキドキ

松也 (赤胴鈴之助 金野鉄之助 平親王将門)


鈴之助って、ポスターでは凛々しいけれど原作の漫画では丸顔でかわいらしい。最初はよわっちい。そんな、スーパースターではないけれど、次第に凛々しくなる鈴之助をよく表現していたと思う。松也のちょっとかすれたハスキーボイスの、哀れな声の表現力もより増していた。
そして、早替わり。全然知らない人は気づかなかったのでは?家に帰って、じっくりとパンフレットを見て、ん?最後の立ち回りはあれ、一人二役だったの?みたいな。そうなんです。でもあれ、歌舞伎の手法だから。歌舞伎おもしろいでしょ。やんややんや。

 

生田斗真 (竜巻雷之進)


えー。こんなにできちゃうの?飛び六方とか。立ち回りとか。実は簡単なの?と思うなかれ。私は歌舞伎役者ではない人が歌舞伎のまねごとをしてみっともない様子をさらけ出しているのを、たくさん見ている。斗真はなんでこんなにうまいのと思ったら、前述のように、長いこと歌舞伎をみて、古典芸能を学んで、努力を続けてきたわけですね。細面で彫りが深く、外国人のような風貌で、なじめないかと思いきや、竜巻雷之進の苦悩がくっきりと現れた。お見事でした~。ファンになっちゃうかも。


中村莟玉 (さゆり)


鉢巻して、長刀もって、きりりとしてセリフを発するところは、どこか大河ドラマ篤姫で幾島を演じた松坂慶子を彷彿させる、声も似ていた。女だてらに千葉道場を支える一人としてりりしい!

なのに、ファンである陽炎太夫に「会えるチャンスがあるかも」、「会えるかも」、「会った」、「話した」、という要所要所で、かわいくなるのが大変よき。莟玉はかわゆいが、莟玉さゆりは、さらにとてもかわいらしいのであった。

 

市川蔦之助 (陽炎太夫実は瀧夜叉姫)


いやあ、実によかった。陽炎太夫、実は瀧夜叉姫。私は蔦之助の2019年の自主公演に行った。その時、なんてこの人上手で素敵なんだろうとほれ込んだのだけれど、本当にうまいし、陽炎太夫の粋な女っぷり、色気、変じて滝夜叉姫の太い声、おどろおどろしさが本当によかった。また蔦之助の自主公演やってほしいな。うりざね顔がとても美しい役者さん。

澤村國矢 (千葉周作・平賀源内)


今回は二役、二つのお役のふり幅が半端なく、振り切れていた。重厚な千葉周作とチャラチャラっとした発明家の平賀源内。平賀源内は、松助が「栄屋異聞影伝来~夢の仲蔵」で演じたそうで、國矢はその時の松助の面影を追いつつ演じるとのことだった。

よきかな…。

 

尾上徳松 (鈴之助母 おすず)

松助時代から松也を支えてきた徳松。自主公演の1回目には何をどうすればいいかわからず、番頭さんと何度も泣いていたという徳松。今度のお役は鈴之助の優しき母。その役どころはぴったりだ。松也をずっと何くれとなく世話をし、尽くしてきたのであろう徳松のおすず。ぴったりすぎて、温かい。

そして幕

バビューン、ドッパーンと赤やら金やらの紙吹雪が1階の客席に放たれ、遠く上から見つめる当方には届かなかったけれど、幕が下がって、カーテンコール。拍手拍手拍手でカーテンコールは続いた。

私が見た日は挨拶はなかったけれど、松也が走って引っ込んでは、またちょっと出てきて走ったりしていた(笑)。いつもおもしろくて、松也のこういう茶目っ気も好きだ。
コクーンの最後でも松也は、幕に引っ込む寸前の最後の最後にキュートなポーズを決めてくれるので目が離せなかった。今回もキュートな笑顔で終わった。楽しかった。

 

ところで、100%の客席ということで、戦々恐々として行ったわけだが、客席はとてもマナーが好かった。私は前楽で席は一番後ろだったので、初日前後のことはわからないがともかくこの日の私の席周辺は、とてもよかった。お隣のおばさまが、いかにトイレにスムーズにいくか勝手に教えてくれたのだけが余計で、「なぜ!今!それを!話すか?」だったけど…。

観劇後は「えくぷり」

 

終わってから、彦三郎さん推薦の、元付き人さんのお店えくぷりに行った。

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とり塩だったかな。おいしかった!スイーツホットサンドも各種あり


えくぷりという名前が思い出せずに、「彦三郎 下北沢」で検索したらばっちり出たので皆さんも店名が思い出せなかったら、「彦三郎 下北沢」で(笑)。

ホットサンドを出す小さなお店で、密ではなく街の喧騒もなく、ホットサンドはおいしく、「挑む」の余韻に浸ることができた。また下北沢に行くことがあれば行きたい。

 

楽しかった「挑む」。「挑む」公演は終わりだけれど、チームの挑むはまだまだ続くんだろう。これからも気になるチーム松也だ。