「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

義賢最期~源平布引滝~立ち上がれ!源氏!戦え!義賢!

面白いです。ただし、人が死ぬ芝居が苦手な人にはお勧めしません。

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後半はチャンチャンバラバラが始まりますから説明不要ですが、前半は予習しておかないと置いてきぼりになるので、把握しておきましょう!

 

とはいえ、陣太鼓、笛、太鼓など戦場の雰囲気を出す鳴り物や、義太夫と三味線に乗ってのセリフが美しく、チャンバラが嫌いという人でなければ、だれでも楽しめると思います。

登場人物

木曽先生義賢(きそせんせいじゃないよ。きそせんじょうよしかた) 源義朝の弟。義朝が討たれ、源氏不利の中、後白河院=平家に味方をする振りをして病を理由に自宅の館に引きこもり、再起の機会を狙っている。

 

御台葵御前 義賢の妻。ただいま妊娠中(お腹の赤ちゃんは木曽義仲)。以前、義賢の先妻に仕えていたこともあり、先妻の娘である待宵姫のことを何かにつけ、気にかけ心配している。

 

下部折平実は多田蔵人行綱 実は源氏の侍多田蔵人行綱だが、源氏不利のため、身分と名前を隠して田舎住まいをして、折平として小万と結婚していた。

 

待宵姫 義賢の先妻の娘。今は折平といい仲だが…。折平の妻を名乗る小万が登場し、動転。

 

小万 折平の妻。7年も行方不明の夫が義賢に仕えていると知って、父九郎助、息子太郎吉と会いに来た。「百人にも千人にも勝りし万と言われた女」、と自ら名乗りを上げるくらいきっぷがよく、気配りもきく、いい女♪ は~~ぁいい女♪

 

九郎助 百姓。小万の父。義理人情にあつい。葵御前を伴って逃げる。

 

九郎助孫 太郎吉 小万と折平の息子。

 

あらすじとみどころ

◆九郎助と小万、折平に会いに来る

 義賢の屋敷で、待宵姫、葵御前が話しているところに、百姓九郎助と娘小万、孫太郎吉が折平を訪ねてやってきます。

 屈託のない様子で屋敷に入ってきた九郎助ら3人。葵御前や待宵姫を見て、美しいものだと感心したり、お土産を出したり。「折平がお世話になりまして」なんて言うものだから待宵姫は、気が気ではない。

折平とどういう関係か聞いてみると。なんと、折平の妻と子どもというではありませんか。

 

<「えええ!重婚!?折平、なんてことを!」って目くじらたてないで。昔はよくあることだったようで、異次元の話としてそこはスルースルー>

 

九郎助は「折平は太郎吉が生まれた晩から家出をして今年で7年。ここにいると聞いてきた。折平にお暇をもらって、共に帰り、自分は隠居をしたいのだ」と言います。

 

待宵姫は、ショックを隠せません。太郎吉なる子どもも「早くととさんに会いたい。抱かれたい」などと言う。九郎助に至っては、屈託なく「吾より先に、かかさんがだーかーれーたーいー」などと言って小万に、これ!オホホなどとたしなめられたりするものだから、待宵姫は頭に血が上る思いです。葵御前は、九郎助親子を屋敷に招きいれました。

 

チェックポイント ウキウキ小万とショック!待宵姫

というわけで、ここでは7年ぶりにやっと折平に会えるとウキウキしている小万たちと、大ショックを隠せない待宵姫にご注目ください!

 

◆待宵姫、折平を責めるもうやむやになる

 ウキウキ3人組は、奥に招き入れられます。そこへ登場したのが折平。待宵姫は、「どういうことなの」と詰め寄りますが、そこに義賢が現れ、それ以上追求できませんでした。

「待宵には用はなし。奥へ行け」と言われ、すごすごと奥に入ります。しょぼーん。

 

◆義賢と折平 腹の探り合いの末、なか~まであることを確認

 帰ってきた折平と義賢。何やらただならぬ雰囲気です。

 

ここでは、実は源氏の味方だが平家の味方の振りをしている義賢と、実は源氏の家来である多田蔵人行綱だけれど、それを隠している折平の腹の探り合い。お互い、もしかして味方じゃないかなー、と思いつつ、うっかり正体をばらして相手が敵だったら万事休すですから、「ほんとかな」「ほんとかな」とじりじりと腹を探り合う場面です。

 

義賢は、うすうす折平のことを多田蔵人行綱じゃねーかなーと感じていたので、わざわざ多田蔵人行綱あての文書を折平に託して、どうするか調べたのです。文書の封が切られていたことを見て、多田蔵人行綱であることを確信した義賢は、自分は平家打倒を目指していると伝えるのです。

 

折平も、実は多田蔵人行綱であると告げ、二人はなか~まであることを確認できました。源氏の白旗をとりいだし、長押にかけ、二人は、こぶしを握り歯を食いしばり、くやしがり「ぜひもなく、世の盛衰じゃなあ」と今の不遇を嘆くのです。

 

そこへ清盛の上使が来たとの知らせ。やばい!二人は慌てて白旗を隠し、行綱は奥に入ります。

チェックポイント だよね、だよね。味方だよねー

お互い平家打倒を心に誓う味方同士とわかる。ここは前半のハイライト。ホッとしますね。なぜ、松の木で手水鉢を割る?のはよくわかりませんが…(;^_^A

◆高橋と長田の侮辱に耐える義賢、ついに刀を抜くまで!

 清盛の使いで来たのは、高橋判官長常と、首桶を携えてきた長田太郎末宗です。源氏の白旗があるのではないかと詮議に来たのです。義賢が病気といって全然出仕してこないのもなんだか怪しいしーと疑っています。

 

白旗の行方を聞かれ、義賢は、「後白河院が持っているんじゃないかなあ。清盛公こそよっくご存じのはず」と、しらを切ろうとしますが、長田は何と、義賢の兄義朝の頭蓋骨を取り出します。頭蓋骨をボカスカ蹴飛ばし、「お前も平家の仲間であるなら、このどくろを踏め」というのです。

 

次の間で聞いている行綱も思わず飛び出しそうになる気配をじっと目で制し、我慢する義賢ですが、「どくろを蹴るか、白旗渡すか」と迫られます。身の毛も逆立つ思いでどくろを踏もうとしますが、できません!

ぐわっはっはと笑う高橋。

 

我慢もそこまで。義賢はついに長田をどくろで打擲し(いや、そ、それはやめましょうよ…)刀を抜いて討ち捨てます。しかし、高橋は逃げてしまったので、遅かれ早かれ平家の軍勢に囲まれてしまうだろうという状況になりました。

チェックポイント ブチ切れ義賢

つらいよーつらい。ここまでじっとじっと耐えてきただけに、義賢がついに刀を抜くところは、まさに怒髪天を衝くといったところ。ため込んだエネルギーは、ここから活火山のごとく大放出です!

 

◆待宵姫は行綱に、葵御前は九郎助に託し、自害の覚悟の義賢。

 逃げましょうと進言する行綱ですが、義賢は「どうせ平家につかまって火責め水責めの生き恥さらすよりは潔く討ち死にしたい、お前は待宵姫と生き延びて、頼朝と心を合わせ、源氏を再興せよ」と告げ、悲しむ待宵姫を行綱に託します。

 そして、葵御前には、「おなかの子どもを必ず立派に育て、源氏再興の旗揚げをさせよ」と告げ、別れの盃をとらせます。

 

「誰ぞ、銚子、かわらけ。用意せよ」と声をかけると、奥から盃の用意をしてきたのは、小万。

 あれ、小万、確かさっき来たばかりの百姓親子。ほかに腰元もいるだろうに、なぜ小万がかいがいしく働いているのでしょう。腰元たちはきっと右往左往しているだけなのでしょう。小万はおそらく人の何倍も気働きができ、気の利く女子なんです。さっと事情を察し、用意して盃とお酒を持ってきました!

 

そして義賢は、葵御前に白旗を託し、別れを告げます。

「言葉交わすのもこれ限りじゃ!」葵御前は涙にくれますが、敵は迫っています。泣いている暇はありません。少々うろたえる九郎助にはっぱをかけ、小万は葵御前の逃げる用意をするために奥に入ります。

チェックポイント 立ち上がれ!源氏!戦え!義賢!

義賢は、長田を殺したことでもう後には引けなくなったことを自覚。逃げも隠れもせず、まっとうに戦って死ぬ覚悟です。そして、小万のウキウキはどこかに吹き飛び、目いっぱい力を尽くして自分の使命を全うする気概にあふれています。大きくドラマは動きました。

◆平家方の追っ手くる

 陣太鼓、ほら貝の音と共に、平家の軍兵たちがやってきました。さあここからは戦いです。

 

九郎助も頭にハチマキ、腕に鍬、太郎助をおんぶして応戦です。この態勢なんというんでしょう。対面抱っこじゃなくて背面おんぶ?背中合わせにおんぶをして、太郎吉も負ぶわれながら棍棒をぶんぶん振り回し、負けじと大活躍です!

 小万は葵御前を連れて落ちのびようとするところに 矢走の兵内が立ちはだかりますが、舞台正面ですっくと立って一笑に付します!

草津あたりにて、百にも千にも勝りて万と言われし女」と堂々と名乗りを上げ、帯を締めなおして、軍兵どもをバッタバッタと倒すのです!

 

小万かっこよ!めちゃんこ強い!最高にかっこいい!

 葵御前は矢走兵内に追いかけられていきます。

 チェックポイント 凛々しい小万に釘付け!

なんといっても、小万のかっこよさでしょう!いわばそれほど義理もない行きずりの客人みたいなものなのに、親子で義賢たちの味方をして命をかけて葵御前を守ろうとするその心意気、惚れますねえ!本来会いたかった折平、とっとと待宵姫を連れて逃げているし…。

◆奮闘の末、義賢最期

まだまだ戦いは続きます。小万と軍兵たちがなだれうって下手に下がっていくと、正面の屏風がバーンと倒れ、軍兵たちを倒して義賢登場。すでに髪はざんばら、肩は額からは血がしたたらせ、悲壮な姿です。ここから30分ほども戦い続けます。

 

軍兵どもが斬りかかってくるのを、はらいのけ、討ちのめしても一向に敵は減らず。矢が、あっちからもこっちからもバラバラいかけてくるのをはらいのけはらいのけ、やっつけ、しばし倒れそうになるも、また立ち上がる義賢。

 

と思えば後ろから狙い来る軍兵。ふんぬとやりをつかみ、叩き切る。と思いきや倒れ込む。

はあ、苦しそうだ。もうだめなのか。新野次郎も次の間から狙っている。危ない!

 

そこへやってきた葵御前と矢走兵内。まだ追っかけっこをしていたのかいな。

 

白旗は葵御前から矢走兵内へ。瀕死の義賢ですが、兵内から白旗を奪う。

 

死ぬか生きるかの緊迫した状況の中ですが、矢走兵内や九郎助や太郎吉の演技は場を和ませてくれます。

 

「孫は背中。御台様はお腹。われと合わせて4人連れ。やれこりゃさ」と九郎助は、ひょこひょこと葵御前を守って逃げていくのです。

 

進野次郎きたー。うしろから卑怯なり。

義賢をうしろから羽交い絞めにして「生け捕ったり~」と叫ぶものの、そうはさせじ。

義賢、逆手にわが腹へ、ぶすと刀を突き刺し、わが身を突き通して敵まで殺す。

 

この白旗を~~。小万!小万よ~!と呼びたつれば、ばたばたと走りくる小万。

 

おいたわしやと嘆く小万に「さわぐな!」と制して、虫の息ながら「義賢が討ち死には覚悟の上。とかく大事はこの白旗」と小万に託すのです。

 

これで思いおくこと少しもなし。さりながら、腹の我が子にただ一目、そればかりが残念なり。死出の旅、小万、見届け。物語れよー。

ははーー!

 

立ち上がる義賢。そして、仏倒れ。ひゃ~。

見守る小万。幕。

 

いやすごい。

 

チェックポイント 哀れ!義賢。見事なご最期

死にざまがすごい。大立ち回りもすごいですが、有名な演出が「戸板倒し」と「仏倒し」と言われるものです。仏倒しは2枚たてた戸板の上に1枚の戸板を乗せ、その上に義賢が立ちます。軍兵たちが支えていますが、合図とともに手を放し、義賢を乗せたまま横にすーっと戸板ごと倒れる迫力のあるもので、必ず客席から「ひゃあ!」「きゃあ!」と声があがります。

 

「仏倒し」は、義賢の最期のシーンですが、階段の上で仁王立ちし、右手、左手とゆっくり広げ(蝙蝠の見得)直立の姿勢のままバタンと階段の上に倒れるものです。これも「きゃあ!」「ひゃあ!」と声があがります。

澤瀉屋の演出で、階段の上ではなく、横からそのまま舞台に倒れ落ちる映像を見ましたが、あれもすごいです。よくけがをしないものです。

 

それにしても役者さん。これを毎日、1ヵ月演じるなんて本当に心身ともにタフですね…。

◆最後に小万!あんたはえらい。小万の話はまだまだ続く

 ちょっとまって、小万。

あなた何でしたっけ。

確か、折平さんここにいるらしいよ~。とルンルン気分で父さんと子どもと来たんでした。そして、気が利くもんだから、ばたばたしているお屋敷の中でお茶出ししたりなんだりしているうちに、敵が攻めてきて、女だてらにバッタバッタと敵をやっつけ、そのうえ大事な白旗を託されて、義賢の死を見届けるのです。

「誰そ。銚子、かわらけー」と義賢が呼んだときにさっと持ってきた小万は、そこでもう全幅の信頼を得たのでしょうか。最後のここ一番の大事なところで「小万―。小万」と指名で呼ばれます。

 

なんて凛々しい、なんて雄々しい小万でしょう。

 

さあ、義賢最期はここで終わりですが、白旗はその後どうなるのでしょう。白旗を託された小万の運命やいかに!

それは実盛物語に続きます。機会があれば見てくださいね。そしてこの「義賢最期」を思い出し、え?あんときの小万が…!と胸を打たれてくださいまし。

 

余談ですが、あんまり小万がかっこいいので、宝塚にもむいているんじゃ…などと思いました。よろしく~。

概況

並木千柳、三好松洛による合作「源平布引滝」五段のうち、二段目にあたる。

人形浄瑠璃として寛延2年(1749)年、竹本座で初演。歌舞伎では大正時代に演じられた。昭和40(1965)年15代片岡仁左衛門(当時孝夫)が復活上演し、その後繰り返されている。にざ様、すばらしい作品を復活してくださり、ありがとうございます涙。

 

観劇レポはこちら

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