「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

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市川弘太郎さんに聞く。「不易流行 遅ればせながら、市川弘太郎の会」

澤瀉屋市川弘太郎さんが、2021年7月31日、8月1日に初めての自主公演を行う。
コロナ禍の今、なぜ? 自主公演にかける想いを伺った。

(2021年7月6日。ZOOMによるオンラインインタビュー)

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市川弘太郎さんプロフィール

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1983年生まれ。93年8月、国立劇場市川右近の会〉『勧進帳』の太刀持で三浦弘太郎の名で初舞台。95年7月市川猿之助(現・猿翁)の部屋子となり、歌舞伎座『小猿七之助』の日吉丸で市川弘太郎を名のる。2013年1月大阪松竹座『毛抜』の八剣数馬ほかで名題昇進。


自主公演きっかけについて

七之助さん・松也さんに背中を押されて

―このコロナ禍で自主公演を決めたのはどうしてでしょう。

決めたのは、2019年の6月です。コロナ前でした。七之助さんと僕は同い年。松也さんは一つ下で、仲が良く、よく一緒に食事していたんです。
6月の歌舞伎座公演に出演しているときに、二人と食事をしていてその時に決まったのです。

二人が「もっとできるんだから、もっとアピールした方がいい。やりたいものないの?やりたいものあればやろうよ。いくらでも俺達協力するから」と言ってくれました。

いつもだったら「ないよ~」と逃げるところですが、この時は二人が本気で、逃げられる雰囲気ではありませんでした。小さいころの思い出も振り返って、2段ベッドで四の切ごっこやっていたなと思いだしました。

子どものころから大好きだった四の切

―四の切ごっこをやっていた?

本当に大好きで、小学生のころもよく、歌舞伎のビデオを見ていました。四の切が今振り返ると多かった。
歌舞伎に興味のない弟をつかまえて「お前。『さてはそなたが狐じゃな』って言え」って(笑)。2段ベッドの上で、はーっといってベッドの縁をつかんで欄間抜け。下のベッドに落ちて、ばッと出てくる。そんなことをやっていました。

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弟と四の切ごっこ

子どもの時からずっと四の切がいいなと思っていたけれど、ずっとそういう思いに蓋をしてきたことに気づきました。そう言ったら「よし。四の切やろう」と。

「こういうのは日にち決めないとやらないから、日にち決めよう!」と言って、二人でパラパラと手帳を開いて、2021年7月31日と8月1日に決めてくれました。

毎年8月は初日が遅いので、7月31日8月1日というのは割と余裕のある日程のはずだったのですが、今年は8月の歌舞伎座の初日が3日となり、そういう意味でも大変でした。なんとか実現できることとなり、今はほっとしています。

「何をやりたいの。自分でやりたいと思うことをやらないとだめだよ」

 ―なぜ弘太郎さんは自主公演を今までしなかったのでしょう。

19歳の時に師匠が倒れて、そこから後ろ盾がなくなり、20代は芝居に出られない時期が長くありました。ようやく30過ぎてコンスタントに芝居に出られるようになって、そこで満足してしまっていました。そこを二人が「いやいや、もっとやらなきゃ」「できるんだからやったほうがいい」と言ってくれたんです。

 

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―松也さんも10年自主公演続けられて今年最後ということですね。

彼が背中を押してくれたというのが大きかったです。こういうのは勢いだからと言って。
「できるかできないかと思っているといつまでもできないから、やっちゃえば回りも助けてくれるし、何とかなるから」と言ってくれたのはありがたかった。

―本当に背中をドーンと押してくれたんですね。

はい、タックル級に押してくれました(笑)。

―自主公演が決まって、師匠である猿翁さんは何と言ってくれましたか。

2年前に、「自主公演をやりたいです」と報告に行くと「わかった、やった方がいい。がんばれがんばれ」と言ってくれました。

師匠は、自分は自主公演をやってきたからここまで来たという気持ちが強い人。春秋会という自主公演を始めて、力をつけ次第に歌舞伎座でも役がつくようになりました。我々弟子たちにもよく「何をやりたいの。自分でやりたいと思うことをやらないとだめだよ」と言っていました。

この機会にやりたいと思ったのは、師匠が元気なうちにやって安心してほしいというのも一つの重要な要素でした。

澤瀉屋は右團治、笑也、猿弥、笑三郎と先輩の部屋子がいて、僕だけ一回り以上年が離れています。師匠は自分が早くに倒れて、弘太郎には何もしてやれなかったと言ってくれているんですって。僕に直接は言いませんが、周りに言ってくれている。だから、何とか安心してほしいと思っています。

―師匠もうれしいでしょうね。

 

コロナ禍での活動について

不易流行プロジェクト、部屋子の部屋などスタート

―弘太郎さんは、コロナ禍で不易流行プロジェクトを開始、オンライン配信、部屋子の部屋と様々な活動を積極的に行ってきましたね。振り返って手ごたえはいかがでしたか。

 

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不易流行オンライン配信での三四助さん(左)、弘太郎さん

 

今回の「自主公演をやる」という目標がなければできなかったことだと思っています。そういう意味でも七之助さんと松也さんにはとても感謝しているんです。

オンライン公演をやってみたところ、地方の方が予想以上に多く応援してくださっていることがわかりました。

―部屋子の部屋は、YouTube不定期にやっている、ざっくばらんな配信ですね。


部屋子の部屋ではいつもお福分けといって、皆さんにプレゼントをしているので、アンケートやコメントに住所をつけてもらいます。それを読ませていただくと、劇場のない都道府県、日本全国からメッセージをいただくんですね。

自分たちは公演のときに、出待ちなどしている方のことを、東京だとこの人がくるから東京の人。大阪だとこの人がくるから大阪の人と思っていたのですが、実はそうではなくて、日本全国から、時間とお金と労力をかけて、劇場に足を運んでくださっていたことがわかりました。

また、今歌舞伎座に出させていただいて、なんとなく観客が戻ってきたように思うけれど実はそうでもなくて、「家族に反対されてまだいけません」とか、「自分は医療従事者なので行けません」という声もたくさん届いています。だから今は、まだまだオンラインの必要性も感じています。

 

―逆に観客からすると、オンライン配信を見て、こんな魅力的な役者さんがいっぱいいるんだなということがわかったという人も多いのでは。そのあと舞台で見るときの楽しみが増えたと思います。

今回の自主公演も、すでにチケットは完売となっていますが、オンライン配信は実現するのですね。クラウドファンディングで多くの方の賛同を得られたと聞いています。おめでとうございます!

 

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公演について

舞台に立っているときが一番落ち着く


―いよいよ自主公演の日も迫ってきましたね。お稽古以外に考えなければいけないことが山のようにあるかと思いますが、いかがですか。

 

お稽古をする時間と舞台に出ている時間が一番精神が安定しています。それ以外の時間は、あれもこれもやらなくちゃいけない。これができていないと焦ったり、いろいろなことを整理したり、自分がイライラすることで回りが不快な思いをして、だからこそもっと動かないとと思ったり、空回りして何も進まなかったり(笑)。

でも、これをクリアすれば子どものころからやりたかった四の切をできる、師匠に安心してもらえる、観てほしいという気持ちでやっています。これを乗り越えれば一つ成長できるのかなと思っています。

吉野山」への想い

―今回かかる演目は、義経千本桜から吉野山と河面法眼館、通称四の切ですが、まず吉野山についての想いをお聞かせください。

昨年8月に久しぶりに歌舞伎座が再開したとき、猿之助さんと七之助さんが吉野山を踊りました。あの時に感じた思いと、今回は自分が七之助さんを相手に踊らせていただけるということ。この1年感じたことが、血となり、肉となればいいなと思います。

 

四の切の演出

 ―四の切は、当然澤瀉屋の演出だと思いますが何か変更点はありますか。

四の切も、いろいろなお家でやり方は違いますが、澤瀉屋の中でも削ったりスピーディーにしたりとずいぶん改善されて変わっています。
今回古い映像からずっと見て、なるほどこういう経緯で変わったのだというところもよくわかりました。

今回は、予算のことや、感染予防のことを考えて、演出は替えざるを得ません。極力密集しないように、荒法師や腰元も少ない人数ですし、最初の河面法眼と飛鳥のやり取りもありません。宙乗りももちろんありません。今までの師匠の演出と同じではありませんが、三代猿之助四十八選と名乗っていいとお許しを得ました。

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佐藤忠信

猿之助さんが指導してくださるということですが、どのような言葉をいただいていますか。

本当にいろいろ心配してくださっています。「びっくりするくらいしんどいよ」と言われています。忠信が狐になってから、どこがどうしんどいのか具体的に教えてもらっているので、そこは特にしっかり稽古を重ねています。

様々な思いを胸に。出演者について

七之助さん、松也さん以外の出演者について、少しお話いただいていいですか。

中村鶴松さん

鶴松さんには、同じ部屋子としての強い思いがあります。彼も早くに勘三郎さん亡くしていますが、自主公演をやりたいという気持ちがあるので、今回同じ舞台の上からその景色を見てほしいなと思っています。鶴松さんは駿河次郎で出ます。

市川團子さん

團子さんには、義経をお願いしました。
團子さんは、今後澤瀉屋でやっていく人。ビデオでおじいちゃん(猿翁)の四の切は見ていると思いますが、昨年11月に染五郎さんが歌舞伎座義経をやったときに團子さんは駿河次郎でした。あの二人も年が近いので、染五郎さんの義経を意識して見ていたと思います。やってもらえたらうれしいなと頼んだところ、ありがたいことに、うれしいですと言ってくれました。

市川三四助さん

澤瀉屋の演出では通常6人でてくる腰元ですが、今回は2人。ベテランの笑子さんと新人の三四助さんにお願いします。6人でやるところを2人でやるので難しいと思いますが、三四助さんには、ベテランについて舞台の空気感を経験してほしいと思っています。

―松也さんは、ご自身の自主公演もあって出られないのでしょうか?

コロナでいろいろ状況は変わっているので、無理して出てくれなくていいよと言ったものの、そもそもこの企画のスタートからして、松也が全くいないというのは、パズルのピースが一個抜けたまま進むようなもの。なんでもいいから噛んでほしいと頼んでいます。どこかではちゃんと参加していますので。お楽しみに!

―それは楽しみです。

公演の位置づけ

新たなステージへ進む分岐点

―今度の公演を、弘太郎さんにとって大切な公演になると思うのですが、どういう公演にしたいと思っていらっしゃいますか。

夢がかなったことで新たな歌舞伎役者としてのセカンドステージが始まると思っています。

うちの師匠や家族に、ようやくここまでできたよ。安心してくださいと言えて、ここから自分の責任としてやっていく。そんな分岐点になるんじゃないかな。

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―いよいよ公演は間近です。緊急事態宣言が発出されたり、コロナ感染者が増えたりしている中、どんなお気持ちですか。

あらゆるリスクは考えています。発熱しただけでも出られないし、濃厚接触者になっただけでも出られない。感染したら当然公演中止です。
ただ、やるといっていて中止になれば次はあるかもしれないが、コロナだからもうやめようと一旦ばらしちゃったら、次はないんです。これは松也さんの言っていた勢いなのだと思います。あとは万全の体制で臨むのみです。

澤瀉屋精神で、これからもチャレンジ!

―今は公演のことでいっぱいかもしれませんが、具体的に先のことで思い浮かべていることがあれば教えてください。

状況がどうなるかわかるかわかりませんが、6月に久しぶりに一門で芝居ができて(6月歌舞伎座3部「日蓮」)、澤瀉屋が自分のホームグランドである幸せを再確認しました。これからも、根本にはずっとあこがれていた自分の師匠が、この場合はどうするか、この時代だったら何をやったか、やめるのか、進むのかということを常に考えながら澤瀉屋精神の元で、やりたいことをチャレンジしていきたいです。

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―私も公演を観るのがますます楽しみになってきました。無事のご成功をお祈りしております。

 

(画像提供:不易流行実行委員会)

■公演概要■

 

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【公演名】
市川弘太郎 歌舞伎自主公演「不易流行(ふえきりゅうこう) 遅ればせながら、市川弘太郎の会」
【公演日時】
第一回:7/31(土)19時開演
第二回:8/1(日)13時開演
【場所】
東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
https://toshima-theatre.jp/
【上演作品】
三代猿之助四十八撰の内 義経千本桜
1,吉野山
2,川連法眼館の場
※出演者は都合により変更になる場合がございます
市川弘太郎中村七之助市川團子中村鶴松
【チケット料金】
一等席 10,000円(税込)/二等席 6,500円(税込)/三等席 3,500円(税込)
※豊島区民割引有
【主催】
「不易流行(ふえきりゅうこう) 遅ればせながら、市川弘太郎の会」製作委員会
【協力】
松竹株式会社

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