「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

夜叉ヶ池

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篠田正浩監督生誕90年祭「夜叉ヶ池」への道”が渋谷ユーロスペースで企画されているということで、玉三郎目当てで行って来た。

玉様目当てだったからそのほかの部分に、なんの思い入れもなく、4Kデジタルリマスター版だということで、「色がキレイになっているのかな」程度の認識で行って来たのだが、これがとんでもなく顎が外れるほど素晴らしかったので、見ていない人はぜひ観に行ってほしい。7月30日まで。渋谷ユーロスペースにて。

「夜叉ヶ池」以外にも篠田監督自ら選んだ9作品が日々上演されるので、観られるものは観たい。とりあえず、吉右衛門岩下志麻心中天網島は観たいなー。

以下は、ネタバレがあるので、まだ見ていない人は読まない方がよいです。私は全く予備知識なしで行き、とてもよかったと思うので。

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竹久夢二美人画のような玉三郎

お目当ての玉三郎は、やはりすごくよかった。百合さんと夜叉ヶ池に住む白雪姫の二役だが、どちらもいい。1979年の作品なので当時、29歳。まるで竹久夢二の描く女性が、そのまま出てきたような雰囲気。細面で頼りなげで、はかなげ。目と目が若干離れていて、つかみどころがない。ぽってりとした小さな唇が動くたびにドキドキする。

 

真逆の二役を演じる玉三郎


私の予備知識は、玉三郎が二役をやる、二役目は妖怪じみているようだということのみだったから、
山崎努扮する山澤が、たどり着いた小屋で見た不思議な女性百合と百合とともに住んでいる白髪の謎の男性」
というこの最初のシチュエーションで「おお。この百合さんが、ヒュードロドロで化けて山姥みたいになるのだな」と思った。

一緒にいる男が、百合さんを裏切るような気もした。そして、怒り狂った百合さんが山姥になるのか…って、道成寺じゃないんだから…。

話の展開はそうではなかった。でも、そうではないか?と思わせる演出、演技が本当にうまい。

 

最初こそ怪しい雰囲気を醸し出す百合さんだったが、じつは一人の男性を愛する普通の女性なのだ。村人たちの襲撃に、小さく震える様が、無防備な小鳥のようだった。

愛に生きたい夜叉ヶ池のお姫様

一方、夜叉ヶ池には白雪姫という竜神がいる。魑魅魍魎を従えていて、カニだの鯉だの変なのが出てきて「こりゃ、ウルトラマンでも始まってしまうのかな」と一瞬思ってしまったが。

白雪姫は、剣が峰にいる恋人に会いたくてしょうがない。いっそ洪水を起こしてしまえば、飛んで行けるとおもうが、家来たちに「人間と約束しているのだから勝手に洪水を起こしてはいけません」と押しとどめられている。(妖怪たちの方が、人間より律儀!)

会いたい会いたいと地団太を踏む奔放で美しい姫さまは、もちろん百合とは全く真逆の役どころ。震える小鳥と、そんな小鳥なんて、指先でひねりつぶせる美しい蛇とどっちも玉三郎が演じているのだから面白くないわけがない。

暴走する村人たちと立ち向かう晃


百合の夫晃は、竜神と村人との約束を守り、鐘撞を仕事としている。鐘を1日に3度つかなければ、竜神は約束を忘れ、夜叉ヶ池を決壊させ、ふもとの村を沈没させてしまうのだ。

 

しかし長く雨が降らず、日照りに悩む村人たちは、夜叉ヶ池に生贄を差し出すという代議士に賛同、その生贄に百合が選ばれてしまう。集団心理というか、人々の暴走が恐ろしい。

昔から雨ごいの生贄の話なんて伝承であるし、歌舞伎にも生贄を題材にしたものはあるので、どこか自然に受け入れていたけれど、よく考えてみれば本当にひどい話だ。なぜか生贄にされるのは女なのだから。弱いものはいつだって犠牲になる。


映画では、暴徒と化した村人たちに担ぎだされていく百合さんのシーンが結構リアルなので、色々なことを思った。

例えば戦争中にソ連軍が襲撃してくるからといって、ソ連兵の相手として差し出された女性がいる。岐阜県旧黒川村から満州にわたった開拓団の話だ。「団を守るためにどうか頼む」と言われて差し出された18歳以上の未婚の女性の話だ。弱い女性を守るのが男性ではないのか。いや、いざとなれば皆、自らの安全だけを考えて、弱い人を危険にさらすのだ。

映画を見ながらそんなことを思い出して暗くなったが、だからこそ輝く晃の存在だ。

加藤剛演じる晃の、百合へのまっすぐな愛がまぶしい。

晃は集団暴徒と化した村人たちに敢然と立ち向かい、堂々と百合を守る。百合は死に、晃も後を追うけれど、まっすぐな晃の愛が尊い

そして鐘をつくことをできなかった(やめた)ため、夜叉ヶ池は決壊して村は水底に沈む。

怒涛のラストシーン

最後は、津波のような水が村を襲うシーンで、これがすごい迫力で驚いた。この映画ができたのが1979年。当時大学生だった私が夢中になってみていた映画は、1977年に公開されたスターウォーズとかかな。邦画なんてテンからバカにして全然見ていなかったけれど、こんなにド迫力な特撮シーンを作っていたとは、本当に驚いた。


ちょうど、映画を見たのが熱海の土石流の事故があったすぐのことでもあり、なんだかリアルで怖かった。映画は土石流ではないけれど。

 

東日本大震災の映像を見られない人は見ない方がいいと思う。

これは大船撮影所のステージを大改造して作ったセットで50トンの水を使って実現したそう。迫力あったなあ。柱に自ら括り付けた山澤は、あの洪水の中でどうやって生き残れたのかなどという疑問は野暮だ。そこは、すり抜けて、生き残ったのだろう。東日本大震災のときだって、電信柱に必死にしがみついて、死んだ人もいたし、生き延びた人もいたのだ。

そのセットのほか、ブラジルのイグアスの滝やハワイなどの滝が映像に使われており、これでもか、これでもかの怒涛の洪水シーンだ。

呆然と洪水の情景を見つめる山澤はもう一つの何かを見る。それは喜びに満ちて天を駆け、恋人に会いに行く白雪姫一行だった。

という映画で、なかなか面白かった~。

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「夜叉ヶ池」は、当時は評価されたものの、権利の問題でDVD化は今までされず、テレビでも一回放映されただけの幻の作品だったそう。今回4Kデジタルリマスター版となりブルーレイも売り出されました。権利問題は解消したのかな。


篠田監督もそりゃあもう一度、死ぬ前に映画館で上映したいと思ったの、無理ないですよ。よかったです。

ちなみに夜叉ヶ池のポスターは、この春「桜姫東文章」で評判となったポスターを手掛けた大倉舜二さん撮影。湖面に立つ 一段と美しい白雪姫です。
このころ、玉様とたくさん一緒にお仕事をされていたのでしょうか。(1993年に「坂東玉三郎onnagata」という本も出されているよう。)

余談ですが、大倉舜二ウィキペディアで調べると
「ファッション、料理、ヌード、歌舞伎、ドキュメントと幅広い分野で活躍した。」とある。そのまえに、まずカメラマンって書いてあげて😅
1970年代のケーキの本がうちにあり、その写真も大倉舜二さん。すごくおいしそうなケーキがたくさん載っています。
2015年に亡くなっていますが、死してなおご自身の作品がどんどんと評価されていること、あの世で喜んでいらっしゃるかな。

 夜叉ヶ池

https://www.cinemaclassics.jp/yashagaike/

 

ユーロスペースはこちら

http://www.eurospace.co.jp/