7月3日。玉三郎の「お話と素踊り」のチケットをもって、すみだトリフォニーホールに行ってきた。当初5月に開催予定だったものが延期となって7月3日に開催されたものだ。
すみだトリフォニーホールは、2019年夏に「菊之助&新日本フィルハーモニー交響楽団二羽の白き鳥~<鷺娘>と<白鳥の湖>」を見たときに、音響など素晴らしいホールだなと思い、それからちょくちょくチェックしている。錦糸町駅からも近い。
さて、今回の「お話と素踊り」、休憩なしの90分。
コロナ禍にもかかわらず客席ほぼ100%の入りであった。
お話
10メートルにも及ぶかと思われる長い幕がしずしずと上がると、グレーのスーツ姿の玉様が舞台中央、花を飾ったテーブルについてお辞儀をしていた。
私は2階席だったが、遠い!玉様が小さく見えるばかりで、これは!と焦ったが、後ろのスクリーンにドーンと大きく映されたので、安心し、時々オペラグラスをのぞきながらゆっくり楽しむことができた。
お話が1時間ちょっとだったが、まったく長いとは感じなかった。訥々と、親しみやすく、時にはおちゃめに失敗談のような話、ふわっと話題が変わって、時にはちょっと真剣な目つきになって、とても大切なことを常にお客様の立場で思いやりつつ、あれやこれやと語ってくれた。
あまり事前に何を語るか考えていないとのことで、やはり今気になっていることが出てくるのだろう、ワクチン接種はしたやら、桜姫のこと、仁左衛門のこと、そして地球環境のことなどが語られた。公式サイトでも書かれていたことだが、もう少し詳しく、深くといった内容だった。
仁左衛門
桜姫は36年前に共演をして、5時間半の大作なので、もうできないと思っていたが2時間になったので、できることとなった。
それでも、権助は裏では早替わりなど大変なので、本当によくぞご無事に2か月やってくださったとのこと。
玉様は朝しっかり食べて、昼はちょいちょい。夜は軽め。仁左衛門は朝はトーストとコーヒーで、夜がっつり食べるタイプなので、3段弁当の朝ご飯を食べていると「あんた、まだそんなに食べているんかいな」と驚かれたとか、楽しそうに語る。
後半は、事前に募集されていた質問への答えという形。
興味深かった質問の中からいくつか。演技についてもあれこれ話してくれたが、きちんとメモっておらず、間違えるといけないので省く。
桜姫の舞台で使われた香は何か
桜姫上の巻の桜谷草庵の場で客席に良い香りがしてきたことはツイッターでも少し話題になっていたが、あの香りは何でしょうか?という質問。
なんと、玉様は、壱太郎クンの踊りを教えると、帰りに壱太郎くんのおばあ様から香をいただいていたそうな。
おばあ様は、初代吾妻徳穂と言っていたので、壱太郎クンの曾祖母だろうか?初代吾妻徳穂さんは1998年に亡くなっているので、1990年生まれの壱太郎クンはずいぶん小さいときに玉三郎さんに教わっていたのでしょうか?若干不確かですみません。
が、壱太郎クンにお稽古をつけるたびにいただいたお香がいろいろあったので、少しずつ使っていたということだった。白檀、伽羅といったものだそうです。
それにしても、幼稚園児の壱太郎クンのお稽古をつけていたのが坂東玉三郎で、お稽古のお礼が吾妻徳穂からのお香!?すげー。
いいお話!伽羅はもうあとわずかだそう。惜しげもなく舞台で使ってくれているのもありがたいこと。残念ながら香りを感じる席にはいられなかったけれど…。
体力や美しさについて努力していると思うが、私たちでもできるようなことはあるかという質問
やはり立ち座りがつらくなってきたので、スクワットをしているとのこと。それから背骨をねじって柔らかくする。あとは、飽食の時代でなんでも食べるものがあるので、「たべすぎないこと」とのことだった(笑)。そして大切なことは継続!
「私は舞台がありますから、継続ができますけれど…略ごにょごにょ」とのことで皆さん、継続がんばりましょう笑。
このほか演技論、照明についても。
照明についてのこだわり
今、その場は何の明かりで、見えているのか、太陽なのか、太陽ならどの高さにあるのか、夕方なのか、いつ暗くなっていくのか、では照明はろうそくなのか、行灯なのか、あとはお客様の気持ちを後押ししながら、こだわりぬいている。
私は、どう光を当てれば、役者が美しく見えるかが優先順位一位なのだと思っていたが、そうではなく、その場の状況をリアルに出すための照明にまず心を砕いているのだと知った。
最後の、踊りを習っている不登校の中学生からの質問にも、一言一言言葉を選びながらも、希望を感じる答えをしていて、満場の拍手となった。
質問は、お弟子さんの玉朗さんが一つずつ読み上げそれにこたえる形。
答えたあと「うん。これでどうかな。次、いいわよ」という感じでお弟子さんの方をくるッと向くところがかわいかった。
「勤行寺」
お話の後、人間国宝富山清琴さんと富山清仁さんによる「勤行寺」の演奏。
こちらは、勤行寺のお坊さんがいろいろと法力を試す話で、早口言葉のように次から次へと、韻を踏んだ言葉がころころふにゃふにゃ出てくるので、耳がくすぐったいような心がワクワクするような不思議な演奏だった。途中、「武具馬具武具馬具、三武具馬具合わせて武具馬具」も出てきた。
三味線を弾きながら、早口言葉。しかも間がぴったり合っていて、気持ちがいいほど。
YouTubeで同じ演者の演奏があったので、ぜひ聞いてみてください。面白いです。
https://www.youtube.com/watch?v=Dr1d9eC-eC0
「雪」
最後は、素踊りで「雪」。
美しい舞台での「雪」は見たことがあったが、玉様最初に言っていたように、歌舞伎役者は化粧をして舞台に出るので、基本、素踊りはやらないもの。そんな貴重な姿を見ることができ、ありがたいことだった。
昨日は熱海で大きな土砂崩れがあり、他にも災害で苦しんでいる方がたくさんいる中、大変申し訳ないけれども、ものすごく心が清らかになった気持ちで、家路についた。
玉様、ありがとうございます。
いつまでもお元気で、ご活躍下さい。
9月は、にざたまで四谷怪談
と書いていたら、なんと!
9月の歌舞伎座でにざたまで、四谷怪談をやるというビッグニュースが飛び込んできた!
びっくり。大丈夫かにざたま。
嬉しいけど、そんなに酷使して大丈夫か。
そして、吉右衛門、秀山祭今年もできないのか。
などなど、清らかで平和だった心がにわかにグルグルしておる。