少し時間がたってしまったが、文学座公演の「ウィット」を観てきた。
英文学者のビビアンが医者から末期がんを宣告され、揺れ動く。という内容を聞くと、ビビアンと同じような年代である私は、他人事ではなく、ツライ内容だったらいやだなと思って構えて行ったのだけれど、そんなことはなかった。
舞台は簡素で、真ん中にベッドが置かれている程度。必要最小限の舞台道具もコロナ故なのかどうかは知らない。
ビビアンは、ジョン・ダンというイギリスの詩人の研究者として名を遂げていて、大学教授。自分に努力と経験に確固たる自信を持っていて、プライドも高い。
ガチガチに固い女性だ。こうあるべき、そうよ。だってこうですもの。に、違いないわ。
そんなビビアンがガンの告知を受けて、ショックを受けるものの、敢然と立ち向かう。
検査をされたり薬を飲まされたり、そこらへんは病院のシステムをちょっと揶揄するような演出も。何度も何度も名前を言わされたり、係が何人も何人も変わったり。病院通いをしたことがある人ならば、誰でも心当たりがあるところだろう。
ビビアンは、常識やプライドといった鎧で身を固めていて自分にも他人にも厳しい女性になっているけれど、最後はすっと素の自分にもどって、天国に召されていった。鎧も何もかも取り去って、安らかに天国に行けたと感じられる美しいラストシーンだった。
そういえば、どんなに苦しんでいても、最後はすっと柔らかな顔になりますよね。死んだ祖父もそうだったし、母もそうだった。仏様になるってこういうことか。眉間のしわがすっとなくなった母の顔を見て、苦しみから解放されたんだと感じたものです。
それにしても主演の富沢亜古さん。ぶっ通しの長セリフがすごかった。実は私の高校時代の同級生なので、同い年なのですが、そのパワフルな演技に圧倒されました。
最後は、すっと安らかになれてよかったね。
「今は少しゆっくり休みたい…」って、公演後にハガキが来ました。
お疲れさま。ゆっくり充電して、また素晴らしい舞台を見せてください。
文学座公演「ウィット」
2021年6月5日~13日
作:マーガレット・エドソン
訳:鈴木小百合
演出:西川信廣
主演:富沢亜古