2021年6月3部の「京人形」は染五郎クンと白鸚の祖父孫共演である。
京人形のあらすじなどは、こちら
染五郎と京人形
左甚五郎が作ったお気に入りの花魁人形。魂こめて作ったものだから、魂が入って動くようになったのはいいのだけれど、甚五郎の魂だから、男のような武骨な動き。これじゃ違うよと、花魁の鏡をたもとにそっと入れると、にわかにしなやかな花魁の動きになるというもの。鏡が落ちると、武骨な男に。気づいて鏡を入れるとまたまたしなやかな。
見るのは楽しいけれど、やるのは大変ですよね、これ。武骨な動きとしなやかな花魁の動きが交互にやらなければならない。
私は、この演目は平成30年の浅草での、甚五郎巳之助、新悟京人形、おとく種之助、
それから去年の七之助の京人形を見ている。
↑こう書いたのは、印象に残っている人。去年は七之助に全部持っていかれてほかの人覚えていなかった。そのくらい七之助が絶品だった。
さすがに女方の部分は、美しさにおいても動きにおいても七之助にかなわなかったが、武骨な部分は案外染五郎クンもよかった。考えてみたら、染五郎クンはマイケル・ジャクソンが大好きなんだった。だからカクカクした動きや、人形っぽいしぐさは楽しく練習したのだろうな。
歌舞伎美人の七之助へのインタビューでは以下のように書いてある。
京人形の精は、人形の男らしい動きと傾城の女らしい仕草の踊り分けがみどころの一つですが、演じる俳優によってその踊り分けの幅が異なり、「難しい踊り」だと言います。「古典だと目指すものがありますが、この京人形の精は、人形振りとも違うし、つかみどころがない分、自由度が高いんですよね。いろいろなやり方があっていいと思いますし、毎日、試しています」と、試行錯誤を繰り返していることを明かしました。
歌舞伎美人より引用
確かに、染五郎クンの京人形は、マイケル・ジャクソンみがあった京人形と言えるかも!
美という面でいうと、美しいのだが骨張りすぎていて、京人形のぽったりした美しさがいまいち感じられなかった。色気がないのだろうな、まだ。
とはいえ、染五郎クンも若いのでこれからますます期待。
43年前の染五郎と黄金の日日
ところで、甚五郎に扮するのは白鸚である!
だいぶ貫禄のある甚五郎だけれど、おちゃめでかわいくて、とても素敵な甚五郎だった。
とても不思議な感覚の中にいるのだが、私は今NHK大河ドラマ「黄金の日日」(1978年)の再放送を楽しみに日曜に観ているのだ。主役が若き日の白鸚、当時の名は染五郎だ。(当時、青春ど真ん中だった私はこのドラマを見ていない)
染五郎は若くてとても格好いい。お目目くりっとしていてキュートだし、顔も体つきもがっちりしていて、太もももズンとたくましい。ちょっとお茶目な顔つきは今と変わらない。生き生きとして砂浜を走り回り、竹下景子を背負って走り、川谷拓三の窮地を救い、栗原小巻を想って恥じらうのだ。
とてもいい。で、毎週見ているから、私にとっては、月に一度舞台で拝見する白鸚さんより若き日の染五郎のほうが身近なわけで、あの染五郎の43年後の姿を今、目の前に見ていると思うと、タイムマシンに乗ってきたようなとても不思議な気持ちになるのだ。
舞台を観るまでもなく、東銀座駅から歌舞伎座に行くためにエスカレーターを上がれば、43年後の染五郎がハムを抱えてドアップで出迎えてくれる。
43年後、染五郎は、孫の染五郎と京人形の甚五郎役で生き生きと舞台に立っていた。
惚れた花魁の人形を彫り、愛でて、魂の入った人形を演じる孫とともに踊る。後半は、大工たちを相手に立ち回りだってするのだ。
さっそうとした若い姿と、43年後の堂々とした姿を同時に見られる、記憶だけでなく鮮明な映像で見られるというのは、今の時代に生きる人がはじめて与えられた特権みたいなものだ。
黄金の日日に出てきた人たちの多くがすでに鬼籍に入った。つい2.3日前には、李麗仙の訃報が伝えられた。
生きているだけでも立派なのに(失礼)、歌舞伎以外にも数々の舞台を通じて人々に感動を与え続けられる人は稀有、月並みな言い方だけれど、ほんとにすごいことだなあ、すばらしいなあと思う。
御年78歳。再来月には79歳になる白鸚丈。ますます健康に気を付けて、ご活躍を祈りたい!
息子の幸四郎、孫の染五郎共に、白鸚に比べると、線が細い感が否めないけれど、白鸚の背中を見てずっと頑張ってほしい。私なんぞが言わずもがなですが。
そして、弟の吉右衛門さんも、どうか治療に専念して、また元気な姿を見せてほしい。