人情噺文七元結は、三遊亭円朝の人情噺を脚色した歌舞伎作品。初演は明治35(1902)年歌舞伎座というから、新しい。
今回(2021年国立劇場歌舞伎教室)のパンフレットに書いてあったが、4つの「場」からなっており、起承転結が明快でわかりやすいと。確かに!4つの場が起承転結になっとる。
あらすじ
起 長兵衛内の場
娘、お久がいなくなるという幕開きでは、腕はいいが、酒とばくちが大好きな長兵衛の今の生活ぶりやお財布事情、夫婦仲などがわかる。
夫婦喧嘩をしつつ、大騒ぎをしていると、角海老からお呼びがかかる。
承 角海老内証の場
実はお久は、自分の家の窮状を知って自ら身売りをしていたと知り、長兵衛猛省。店の女将のお駒がまたイイ女で、年末が無事に過ごせるようにと50両を貸してくれるのだ。江戸時代は、つけでものを買い、月末、年末に取り立てがくるものだから、これから年末、取り立ての嵐がくることが予想される長兵衛さん、にっちもさっちもいかなくなっていたんだ。
転 大川端の場
大感激で、酒もばくちもしないぞと心に誓っての帰り道。ふらふらと歩く若い男文七と出会う。50両を預かって、店に帰る途中、すられたのかなくしてしまい、もはや死ぬしかないと思いつめている様子。親身になって話を聞くうち、「人の命は金じゃあ買えねえ」と、文七にポンと50両上げてしまう。後先考えない長兵衛は、文七の名前すら聞かずに走り去ってしまった…。
ええ~それはいくら何でも!娘が身売りして作ったお金を!長兵衛さん!
結 元の長兵衛内の場
事情を聴いた長兵衛の妻のお兼。あげた?50両を?名前も知らない若者に? は~?
ってそりゃもう、怒る怒る。そりゃそうだ。私でも怒る。
身投げしようとしていた若者にあげたなんて、うそだろう。どうせばくちですっからかんになったんだろう!と責め立てる。長兵衛も言い訳したり、居直ったりでとにかく大喧嘩。
そこへ、ごめんくださいましと来たのが…。
ってわけで、めでたしめでたし。そのうえさらにめでたしめでたしというお話。笑って打ち出し。気持ちよく上を向いてハッピー気分でおうちに帰れます。
見どころ
悪者は出てこない
だーれも悪い人は出てこない。みんないい人。長兵衛は、江戸っ子気質でけんかっ早いし、酒ばくちに目がないけれど、腕は確かで困っている人を見逃せないいいやつ。
お兼も、口は悪いが、長兵衛のことを好きなんです。
「お前さん!」
「おう!なんでえ。ばかやろう!」みたいな夫婦の呼吸がピッタリ合っていて、観ていてとっても楽しい。
お久に至っては、こんないい子はいない。それはやっぱり、世話好きな母さん、困っている人を見ては黙っていられない父さんの娘だからなんだろうな!
長兵衛という人の魅力
長兵衛は、腕はいいが、江戸っ子気質で酒とばくちが好きなのが玉に瑕。宵越しの金は持たねえよ。困った人を見ては、黙っちゃいられねえ。おっちょこちょいだが、考えているより先に、行動しちゃうみたいな人で、周りも「バカだよ、あいつは」と言いつつ長兵衛を愛さずにはいられないんだろう。
コミカルな笑いと人情にホロリ
ばくちに負けた長兵衛が裸同然で帰ってきて、呼び出されて出かけようにも着るものがなくて、女房の着物を着ていく。派手な夫婦喧嘩。おっちょこちょいの勘違い。文七とのやりとり。そんなコミカルな描写に笑う一方で、お久の孝行心、お駒の粋な計らい、和泉屋清兵衛の人としての正しさ、文七の素直さなどにホロリとする。それがもう解説なんぞなくたって、ストンストンと胸に落ちる。
今回の配役(2021年国立劇場歌舞伎教室)
今回、松緑がやっているけれど、初役とは意外。「若殿と泥棒」の泥棒役に雰囲気が似ているせいか、すっとなじむ。音羽屋の大事にしている演目だが、しっかりと菊五郎に教わって、新しい長兵衛としてこれから何回もやることになるのだろう。
本人、7月には「あんまと泥棒」で泥棒役をやるということで、今年はなんだか泥棒づいているしと、紀尾井町家話でぼやいていました笑。(長兵衛は泥棒ではないが、なんとなく汚い(笑))
お兼は、扇雀。こちらは何度もお兼役をやっているので松緑としても頼もしい女房役だっただろう。松緑も安心して臨めたと思う。
坂東亀蔵の文七も、お久役の新悟も、よかった。
そして、文七元結は、ドタバタ喜劇みたいにしてしまうとちょっと違うと感じるので、今回はそういう意味でも抑えられていてよかった。
公立高校からのキャンセルがあって、空席が多いようなので、ぜひ皆さん足を運んでみてください。
中学生高校生も、早く見られますように。
今回の国立劇場の歌舞伎教室については、こちら↓