「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

春興鏡獅子~世界中の人、見てくれ。

美しく、可憐で、勇壮。芸術の極致「鏡獅子」をご紹介します。

 

あらすじ

観客は、将軍の目線で弥生の踊りを楽しむ

舞台はお正月。お鏡曳きの日です。お鏡曳きというのは、鏡餅を板に乗せてひいて回るお正月の行事です。

その余興に、小姓の弥生は踊りを披露させられることになります。家老、ご用人、老女飛鳥井、局の吉野が話しながら、踊りが始まるのを待っています。

そのうち、小姓の弥生が飛鳥井と吉野に手を引かれて登場。恥ずかしがって控えの間に引っ込んでしまいますが、もう一度連れ出されて、ついに覚悟を決め、正面を向いて深々と挨拶をします。

ここで思わず観客は拍手喝采となります。けれどもこの時、弥生は観客に向かって挨拶をしているわけではありません。将軍に向かって挨拶をしているのです。

つまり私たち観客は、将軍の目線で弥生の踊りを楽しむことになります!

どうぞ皆さん、将軍になったつもりで弥生の踊りを見てやってください!

袱紗を使い、手をひらひらと自在に動かし、扇を使い、さらに2枚の扇をくるくると飛ばして受け取り、鮮やかに美しく舞う弥生です。


恭しく獅子頭を受け取り、舞っているとそこへ蝶々が飛んできます。後見さんが差し金で操る蝶の動きは本物そっくり。蝶ってひらひらととりとめもなく舞いますよね。

 

その動きに見とれる弥生ですが、手にした獅子頭は、次第に蝶々に反応し始めます。 まるで飛んでいる虫を狙う猫のように!

 

もちろん獅子頭を動かしているのは、弥生の中の人。でも獅子頭と弥生は別物なので、自分の意思とは別に獅子頭が動いているように演じなければいけません。

「なんだろう。この獅子頭」と弥生が訝しむうちにも、獅子頭は弥生の手に収まったまま、カタカタと勝手な動きをするのです。

ついに弥生が上手に行こうとしても、獅子頭は花道を飛ぶ蝶を追いかけ、弥生は引きずられて、花道から転げるように去っていきます。

可憐な胡蝶の精の踊りの後に、勇壮な獅子の精が現れる

その後、かわいらしい蝶の精、胡蝶が現れ、この世のものとも思えない可憐な舞を見せるのです。(いや、この世のものじゃないから正解ですけれど)

大薩摩で、深淵なる風景が目の前に浮かぶと、その後現れるのは、獅子の精です。

何て立派な姿でしょうか。

 

太鼓、三味線、小鼓、静と動、

〽牡丹の花に舞い遊ぶ~
胡蝶が現れて、ひらりひらひら。胡蝶の衣裳も先ほどと違ってこれまたかわあいいっ!

まるで蝶々の紋がついた羽のような袖を大きく広げてすぼめて、ひらひらと踊るさまは、なんとも言えず愛らしい。

胡蝶は目をつぶって休んでいるような獅子の精の肩に触れて起こし、ともに舞います。

このあとの、ちりりんちりりんという音、

太鼓、ぴーひゃらら。三味線ベンベン
長唄 はっ!ほっ!


〽獅子が勇んでくるくるくる~


毛振りもブンブンと鮮やかに、獅子は胡蝶と共に舞い納めるのです。

 

見どころ

 弥生と獅子の美しさ

それはもう、弥生と獅子の美しさ。今回は菊之助なので、姿そのものはもちろん、踊りもとても美しいです。2年前の團菊祭での完璧な道成寺を彷彿とさせる今回の鏡獅子。しっかりと目に焼き付けたいものです。何十年後にまで語り継がれる姿です。

 

「あの時の菊之助のすばらしさと言ったら…。」

今回鏡獅子を見た皆さんは、20年後30年後、ぜひ、お子さんやお孫さんに自慢をしてください(^^)/

 

菊之助が語る鏡獅子

www.kabuki-bito.jp

胡蝶のかわいらしさ

今回2021年5月、弥生と獅子の精が菊之助。胡蝶の精が菊之助長男丑之助クン(2013年11月28日生まれ。小2)と、彦三郎長男亀三郎クン(2013年2月5日生まれ小3)。

 

二人とも、お父さん、おじいさんにがっつりと見守られながら、しっかりと踊ります。

 

丑之助君は、父菊之助が弥生と獅子の精としてともに踊ります。亀三郎クンは、最初の場面で父彦三郎がご用人、そして祖父の楽善が家老の渋井五座衛門として出演しています。

 

その可憐なこと。衣裳がかわいらしいこと。音楽がすてきなこと。


二人とも3ヵ月練習してきたとあって、息もぴったり。少し初日の幕が開けるのが延びてやきもきしましたが、無事に幕が開いて本当によかった。

音楽について

歌舞伎の音楽は、どれも邦楽で(新作の場合違うこともありますが)ドレミの音階とは違います。なんというか、これがいいんですな。

三味線のぺんぺんぺんぺん、ペンぺけペン
笛のピーピーヒャララ、ピーヒャララ
小鼓のテンテケテンテン、テケテン
太鼓のテンテンテンテン
イヤーーーーーっ。ハッ、ホッというかけ声
胡蝶が出てくると聞こえてくるチリンチリンという音を聞くと、蝶々の鱗粉でも降ってきそうです。

鏡獅子では、これらが一斉に奏でられ、時には止まり、また奏でられ、スピードアップし、踊る人と一緒にパワーアップしていく様が本当に素晴らしい。否が応でもこちらの脳みそのど真ん中あたりが、カッパーンと反応するのを感じます。

衣裳について

今回の菊之助の衣裳。弥生が最初に出てくるときは、薄紫の着物と濃い紫の着物と毎日交互です。私は幸運なことに2回観られたのですが、ちょうど衣裳が違ったので、薄紫と、濃い紫と両方見ることができました。薄紫のときは、ふうわりと可憐な印象で、濃い紫はもう少しキリッとした感じでした。成田屋さんのときは、黒だそうです。

 

この二つの衣裳は、尾上菊之助さんのインスタで観ることができます。

https://www.instagram.com/onoekikunosuke/?hl=ja

 

後半の獅子は、これですよ。かっこいいですね。菊之助のひいおじいさま(血はつながっていないけれど、なんか似ています)

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いつも歌舞伎の衣裳って素晴らしいなと感じます。単に豪華ということではなくて、そのデザイン性です。昔は専門のデザイナーがいたわけでもなく、狂言作者やら座元やらがごちゃごちゃ話して作っていたという衣裳。色、柄ともにはちゃめちゃなのに、なんだかすごく素敵。

今回の胡蝶の衣裳も、最初の衣裳ももちろん真っ赤でかわいいのですが、後ジテで出てくる衣裳が、はてしなくかわいい。袂は丸くなっていて蝶々の羽みたい。モンシロチョウの紋のような模様がすっすっとあり、身頃は紫とピンクのボーダー、袴は白と紫の市松で、裾には赤いラインが入っている。えりから背中にかけて緑と黄色の変な模様、なんだろう、あの緑と黄色は。幼虫が想起されるような模様です。

不思議だけれどかわいいんですよね。坂東彦三郎さんのインスタでは、後姿も観ることができます。

 

https://www.instagram.com/otowayabando/?hl=ja

 

今回の春興鏡獅子を見て、演者の美しさはもちろんなんだけど、明治時代に成立した音楽も衣裳もすごくて、もう世界中の名だたるダンサー、クリエイター、音楽家、デザイナーそして私のような庶民、みんなに見て聞いてほしい、これぞ日本の誇れる伝統だよと大きな声で言いたいような気分でした。

 

そう感じる演目は歌舞伎にはたくさんあるんですけれど。だから、また見てしまうのですけれど。

 

そうそう。彦三郎さんのインスタでは、獅子の左右に胡蝶が二人ポージングしている写真がアップされていますが、1枚目は左から丑之助、菊之助、亀三郎という今回の3人。

2枚目は、黒白写真。同じポーズで左から楽善(亀三郎クンのおじいちゃん)、梅幸菊之助のおじいちゃん、菊五郎のお父さん)菊五郎菊之助のお父さん、丑之助のおじいちゃん)という1955年の写真です。この時と同じポーズで今回撮ったそうです。

すごくないですか?これぞ伝統芸能の力!

ちなみに、私はこのおうち、どちらも4代の演技を見ているんですよ。(鏡獅子ではないけれど)

羽左衛門→楽善→彦三郎→亀三郎

梅幸菊五郎菊之助→丑之助

 

いや、すごいですよね。伝統芸能の力と、個人個人の努力の結晶、総合芸術に圧倒されました。

 

概況

福地桜痴作詞、三代目杵屋正次郎作曲、振り付け九代目市川團十郎、二代目藤間勘右衛門明治26年(1893)年3月歌舞伎座初演。