「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

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桜姫東文章(4) 下の巻 くわしいあらすじ

さあ、いよいよ物語も佳境です!実はますます展開がものすごいことになる下の巻。6月に上演されるのが今から待ち遠しいですね。一般チケット売り出しの本日14日。その日のうちにチケットは完売しました……恐るべし。

上の巻のあらすじはこちら!

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登場人物 

清玄 
桜姫
権助 
金貸し綱右衛門 
有明仙太郎 実は吉田家の家臣、粟津七郎。
葛飾のお十 実は吉田家の家臣、奴軍助の妹で粟津七郎の妻
残月 スケベな腐れ坊主。だが、おもしろい
長浦 残月の妻。
見世物師 因果勘六 女衒の男。桜姫を拾って残月のところに連れてくる。

 

■三幕目 岩淵庵室の場

清玄、残月と長浦に殺される

 

残月と長浦も、オフィスラブがばれて追放され、今ではしがない古家住まい。
実はそこに清玄も身を寄せています。すっかり落ちぶれた姿です。

長八と九郎八が来て、青蜥蜴なんておいていきましたよ。なんでも青蜥蜴は、猛毒だそうですよ、ドキドキ。

そこへ来たのは葛飾のお十。男の子を亡くして回向してほしいと、残月のところにやってきたのです。
お十は、亡くした子どもの替わりに、清玄の手元にいた赤子の面倒をみようと連れて行ってくれました。実はお十は、桜姫の味方です。それがわかるのは後の話。

清玄はお十に感謝しつつ、桜姫のことを忘れることができず、香箱を包んである袱紗の中を眺めてはため息、長浦が持っていた桜姫の小袖を抱えてはため息をついています。

それをみた残月と長浦は、袱紗にへそくりを包んでいるに違いないとにらみます。

 

まあ、品性下劣な人はイヤですねえ(笑)、袱紗の中にあるのはお金じゃありませんよ、愛ですよ(笑)。

 

二人は、さっき長八たちが置いていった青蜥蜴の毒で清玄を殺して金を奪おうと画策します。薬と偽り飲まそうとするのですが、もみ合ううちに毒が清玄の頬っぺたにかかり、頬が紫色にただれてしまい、苦しむ清玄。ついには残月が首を絞め、殺します。

 

せっかく清玄を倒したものの、金かと思ったのは、ただの香箱。残月はがっかりして死体の始末をつけるため、墓を掘るための穴掘り男を呼ぶと、なんとそれは権助でした。

類は友を呼ぶというのでしょうか、悪い奴には悪い奴が引き寄せられるんですね。権助は全くもって社会の底辺にうごめくクズですから、ろくな仕事をしていないですね。

ところで、ここ、清玄から権助への早替わりです。長浦さんと残月さん、なるべくゆっくり話してあげてほしいもの。

 

桜姫、権助と再会。権助、残月と長浦を追い出す

そんなところにやってきたのが、女衒の男と何やら不思議な雰囲気の女。それは桜姫でした。
桜姫は、ひとりさまよううちに、女衒の男に拾われて、女郎屋に売り飛ばされるところです。

とはいえ、悲壮感はゼロ。
「コレ、わが身は自らを、いずれへ連れていくのじゃ」なんて口調で、勘六(女衒や)を苦笑させています。

勘六が女郎屋に話をつけに行く間、桜姫は残月に預けられましたが、頭巾をとったその顔をみて桜姫だったので残月、ビックリ仰天。

そういえばもう邪魔な清玄もいないことだし、今や宿無しとなり、売られそうなお姫様。いやが応でも物にするぞと襲い掛かります。ほんとに腐れ坊主ですねえ。

それを止めに入ったのが、我らが仁左衛門権助だ。出刃包丁を持って「間男め!」と残月を取って投げだし、残月と長浦を共に追い出してしまいました。

みぐるみはがれた残月と長浦。浄瑠璃に合わせ、道行のように情緒たっぷりで花道にかかるかと思いきや、残月「そんなんじゃねえわ。お囃子さん、囃子がちがったちがった」と、下座に向かって言い、下座がチャンチキチと浮かれ囃子になって、踊りながら引っ込みます。

いやあ残月さん、見せてくれますねえ~。

さて、ツンデレ桜姫は、権助に再び会えて、かけよりすがり。
「たとえそなたは下様の氏系図無き者にもせよ、わらわがはじめてまみえし殿ご」って(笑)大仰な姫様言葉に、権助も苦笑い。

頼るものとてないので、よろしくねと頼む桜姫に、権助が言うことには、力にはなってやるが、自分のような者のかかあになるには、お姫様然としていてはダメだから「人柄の悪くなる稽古」をさせたいというのでした。もとより、売り飛ばす予定になっていますから、その根回しってことでしょうか。ずいぶんひどい亭主があったものです。ま、権助ですから!

清玄、踏んだり蹴ったりの挙句、二度目の死

権助は用事ででかけ、後に残った桜姫は留守番をしておりました。天気は悪く、雷もひどくなり、家の近くの柳の木に落ちたよう。ガラガラドンドン。

恐ろしい音に桜姫は思わず突っ伏す!その時です!なんと死んだと思った清玄が、生き返ったのです。清玄は、夢にまで見た桜姫が目の前にいたので、「やや!」と驚きます。

驚いて逃げようとする桜姫を止めて、桜姫の前世、白菊丸について語りだす清玄。そして、色よい返事を。と迫るのです。けれども桜姫にしてみれば、権助の罪をかぶって破戒僧となった清玄に、申し訳ないという気持ちはあっても、だからといって恋愛を求められても迷惑なだけ。

逃げられれば、追いたくなるのが人情。恋愛がダメなら無理心中だ!と追いかける清玄。冗談じゃないよと逃げる桜姫。もみ合ううちに清玄ののどに刃物が刺さり、今度こそ絶命するのでした。

もどってきた権助。なぜか、片頬が清玄のように醜いあざができてしまいましたよ。

「清玄、踏んだり蹴ったりの挙句、二度死ぬ」の岩淵庵室でした。

ああ。清玄⇔権助の早替わりも忙しい。にざ様がんばって~♪

■四幕目 山の宿町権助住居の場

長屋の店子たちが捨て子を連れてくる

桜姫を売ったお金で、まんまと家主に収まっている権助。家主となれば、店子たちのいざこざをまとめなければいけませんが、そこにいちいち悪知恵を働かせて、脅したり、だましたりして金をふんだくるアコギな大家業です。ま、権助ですから!

そこに金貸し綱右衛門や店子たちが登場。仙太郎、お十もいます。

店子たちが来たのは、捨て子を拾ったので大家さん、よろしくお願いしますというわけ。この時代は、捨て子を見ると金を出し合って3両で大家にお願いするという慣習だったそうです。

それで、店子たちは金を出し合って、3両を作ってきたのですが。権助は、さらに2分+しろというのです。さすが権助さん、抜け目なくあくどい。

この捨て子、実は仙太郎が捨てたものでした。お十が預かった権助と桜姫の赤子です。仙太郎とお十は、吉田家の家臣で吉田家再興を願って桜姫を陰ながら守っていたのです。ところが、赤子が権助と桜姫の子どもであることがわかり、吉田家再興に差しさわりがあると考えて、仙太郎が捨てたんですね。そしたら、長屋の連中に拾われて、権助のもとに戻ってしまった。

 


権助は仙太郎が捨てた子とわかり、お縄になるのが嫌ならば、この俺様に20両出してこの子を連れていけ とまた無体なことを言います。

もちろんそんな20両なんてお金ありません。あったとしてもお前になんぞ、やれるかいと仙太郎は思うのですが、20両がないなら、女房を置いていけと権助

お十は、自ら質草となり、権助のもとに残ります。それもこれも、桜姫を思うが故です。

女郎屋をクビになり、桜姫戻る

さて、そこへやってきたのは勘六と桜姫。
桜姫は、小塚っ原の女郎屋に売り飛ばされていたはず。お姫様からの凋落がすさまじいですね。
なんと、女郎屋から追い返されて戻ってきたのです。

 

でもここでも桜姫の悲壮感はゼロ!! ツオ~イ!

 

桜姫は、腕の鐘の彫り物とお姫様だったことから「風鈴お姫」と言われて人気者になったとか。なんでも、待ち札(整理券)が出るほどの人気だったそうです(笑)。

ところが、風鈴お姫の枕元には夜な夜な幽霊が出るとのうわさが立ち、権助の元に戻されてきたのでした。

桜姫は、ちょっとの間「下品の修業」をしている間に、すっかりとはすっぱなしゃべり方が身についているのですが、ひょっとした拍子にお姫様言葉が出てきてしまい、ちぐはぐなおかしさです。そんなところも人気の秘密だったのかもしれませんね。

勘六は、金を稼ぐために、桜姫を夜鷹にでもしようと連れて行こうとしますが、権助はそれをとめ、お十を替わりに差し出します。お十も姫君の身替りならばという気持ちで、承諾するのでした。

清玄の亡霊が、桜姫に真実の一端を知らせる

お十を送り出し、二人きりになり、権助は「コレ、かかあや。ほんに久しぶりで帰ったの。これ、酒も一升買ってある。今で日が暮れねえが、寝支度をしておこうか」と、その気満々♪ですが、桜姫は
「よしねえな。今夜は自らはかり寝所へ行って、仇な舞う蔵の憂いものう、一人寝が気散じだよ(気楽だよ)」とまあ、上の巻のお姫様のころとはエライ変わりようです。

 

権助が、それなら赤ん坊でも寝かしてやれと言っても、「そんなしみったれたものは自らは好かねえわな」とヤンキーのよう…!

 

あんたの子どもですからっ!

 

権助もあきれて、化け物噺に話をうつします。そして、

 

化け物なんざ来たらぶった切ってしまわっし。おらぁ、刀をもっているわ。これこれ

と刀を見せびらかすのでした。

 

そこへ迎えがきて、権助は寄合に出ていきます。後に残った桜姫を待っていたのかどうなのか、ぼうっと現れたのが、清玄の亡霊です!

きゃーっと桜姫が言うかと思いきや、いつものお前かといった風情。
「これ、幽霊さん。イヤさ、そこへ来ている清玄の幽霊どの」
「最初はいとしやとも不便なとも、因果の道理とも思いしに、毎夜のことゆえ慣れっこになって怖くないよ」とピシリ(笑)
消えてしまいねえよ。というのですが、清玄の亡霊は、赤子が権助と桜姫の子どもであること、そして、権助が清玄の弟であることを示すのでした。

冷たくあしらっていた赤子が、わが子だったと知って、驚き、赤子を慈しむ桜姫でした。しかし、それも長くは続きません( ;∀;)

権助、酔っぱらって真相をしゃべる

そこへ権助が酔っぱらって帰宅します。袢纏を脱ぐ拍子に密書が落ちます。
その密書には「松井の源吾さまへ。信夫の惣太」とありました。ハッとし、思わず懐にしまう桜姫。

権助は、酔っぱらって気が大きくなっており、「お前はお姫様だというが、俺だって元は侍だ」などと語りだします。そして、そのうち大出世をするといって、見せたのが都鳥の一巻。

上の巻を読んでいただければわかりますが、吉田家が没落したのは、桜姫の父と弟が殺され、お家の重宝都鳥の一巻が何者かによって盗まれてしまったからなのでした。

なんと、父と弟を殺し、お家の重宝を盗んだのが権助であったのです。

桜姫、父と弟の仇を討つ

ご機嫌なまま寝込んでしまった権助に対し、桜姫はただもう呆然とするばかり。しかし、桜姫は行動を起こします! ツオイ!

仇の子どもである赤子を殺し、権助を討ちます。 ツオイ…!

騒ぎを聞きつけ、追っ手に囲まれます。

 

■大詰め 三社祭の場

吉田家の再興なる

助けに来た奴軍助、お十、七郎らが追っ手を蹴散らかすのでした。

桜姫は、これでお家の再興まちがいないと安堵したものの、すでに二人を殺してしまったからには自害しようとします。

しかし、そこに現れた大友常陸介頼国。
都鳥を確認し、父と梅若の仇も取ったことをほめたたえるのでした。そして、陰になり助けてくれていたお十、七郎、軍助も一堂に会し

これにてお家は万々歳。
めでたいのう。
かたじけない。

東西
まず、今日は
これぎり

で幕となります。

 

参考:平成5年11月国立劇場歌舞伎公演上演台本 なので、演出が変わっている場合もあります。

 

は~。めでたしめでたし。

 

おまけ 素敵なことばつかい vol.2 

とつけもない


NHK大河ドラマ「いだてん」で勘九郎が「とつけむにゃー」とよく叫んでいたのも記憶に新しいですね。あれは九州地方の方言かと思っていましたが、「とつけむない」がこの芝居でよく出てきます。

桜姫 とつけもねえ、自らなぞは、子どもは嫌いだよ。

権助 とっけもなく出世するわ

(取り付けもないの訛り)途方もない、とんでもない、思いもよらぬの意味だそうです。

上の巻のおまけで書いた「すてきに~」も下の巻でもたくさんでてきますね

権助 (刀を持ってきて)
こしらえはむさいが、イヤ素敵に切れるの

権助 (寄合で飲んできて)素敵に飲んだ。

権助 (桜姫に酒を勧められて)おらぁ素敵にのんでいるが、こうなりゃあそこは、飲む飲む。

などです。楽しくて、わかりやすくて、親近感のわく会話ですね。


さて、これで下の巻はおしまい。

真面目に読むと、ジェンダー的には許せない話ですが、それを役者と脚本の力で楽しく、破天荒で、すてきにとつけむないお話に昇華させる素晴らしいお芝居ですね。

願わくば、初日から千穐楽までつつがなく上演されますことを祈ります。

 

上演スケジュール

六月大歌舞伎

6月3日(木)~28日(月)第2部

14:10~

休演日:7日(月)・17日(木)

 

桜姫東文章(1)楽しみな理由3つ
https://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2021/04/03/214637

桜姫東文章(2)上の巻 くわしいあらすじ
https://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2021/04/04/170154

桜姫東文章(3)上の巻 セリフにみる権助のワルっぷり
https://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2021/04/11/172653

 

桜姫東文章(5)千穐楽に観る
https://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2021/06/29/201426

桜姫東文章(6)権助はなぜ死ななければならなかったのか
https://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2021/06/30/001721