「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

樋口一葉「十三夜」 ~よし梅芳町亭にて

2月27日は人形町のよし梅芳町亭に行ってきた。

樋口一葉原作の「十三夜」を新内節義太夫節で聴かせてくれ、なおかつお料理付きという二重三重のおススメにひかれてイベントに申し込んだのがいつだったか。11月か12月か。

 

とにかくコロナが感染拡大しているので、「来年の2月のイベント」なんて開催できるか全く予想もできず、というか半ば「無理だろうな」という気持ちで、やけくそ半分、祈るの半分のような気持ちで申し込んだような気がする。ちょっと高かったし。賭けみたいな。

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結果、行けた。よかった。

 

樋口一葉の「十三夜」という原作のすばらしさ。それを新内と義太夫での演奏と語りを、目の前で堪能できる。

さらに、まるで十三夜の時代そのままのような「芳町亭」という建物。そして、味、見た目すべて宝石のようなお料理。

 

すばらしさの四つ巴ですよ。

よし梅芳町

 開演30分前に、女将が建物の案内をしてくれた。何年か前にランチで本店にお邪魔したことがある。でも芳町亭は初めてだし、何より建物をすべてぐるりと案内してもらったのは、初めて。

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よし梅芳町亭は、関東大震災直後に建てられ、戦火は免れて今にその姿を残し、登録有形文化財となっている。その繊細で華奢で風情のある建物は、なにかもう現代の私たちがすっかり忘れている繊細なもの、ぞんざいに触れられないような気品に満ちている。きらびやかではないが、楚々として美しい。

 屋久杉の天井細かな格子、ゆらゆらとゆらめいて景色が見える手漉きの波板ガラス。

その窓の向こうの風情のある小さな庭。

 

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可愛らしいお雛様。

樹齢500年の秋田杉の板戸。

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そして、毎日ていねいに磨き上げられた松の板の床。

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 ふすまの引き戸にもこまやかな細工。

 

欄間の細工。などなど。

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芸者花柳小菊の住んでいたお部屋。

 

じっくり見られてよかった。

十三夜の前に 

さて、時間になると、十三夜の前に、新内節で「蘭蝶」の一部と、新版歌祭文の野崎村の段よりお染のクドキを越孝さんが少々。

 

グッと気分ものったところで十三夜。

 

ところでこのチラシというかパンフレットというか、とても美しいと思いませんか?

十三夜の字といい、十三夜を思わせるようなぼーっとかすんだ明るい光、いや二人を照らす電灯かもしれない。そして、真っ暗に続く藍色の闇。とても美しくてこれを見ただけで、参加したくなったんだなあ。たしか。ちがったかな。

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もう一回出しちゃうけど。

十三夜

「十三夜」というのは、樋口一葉原作で、久しぶりに予習をしようと思って文庫本を買ってあらかじめ読んだ。開いて、一行読んで一瞬「無理、字が小さいし、古典」と思ったが、そんなことはなくて、するするするすると読める。流れるように読める。美しい文だ。

 

お話は、

今でいうモラハラ夫、DV夫に嫁いだお関が、耐えかねて実家に戻ってきたのが十三夜。実家ではお月見団子を作って十三夜を愛でていた。実家で話したものの、親に説得されて家に戻る。その途中で出会ったのが、昔の想い人で、人力車夫となっていた録之助。二人は驚き、言葉を交わすが、また各々の世界に戻っていく。という短い十三夜の夜のお話。

 

えー?そのまま帰るの?そこでおしまい?と思うなかれ。それを昇華させるのが芸術というものだ。

始まる前に寛也さんが「男尊女卑ばかりに目がいくと、おもしろさが半減しますよ。読者には女の人が多かったから、実は言えないことを代弁してくれている部分も必ずあります。一応言いたいことを全部ぶちまける。お母さんが。それを女性たちは言えないことを代弁してくれるように感じたのでは」と話してくれて、よかった。

 

新内と義太夫での語り。お関と母を語るのが新内節の鶴賀伊勢吉さん。伊勢吉さんと三味線をつまびくのが鶴賀伊勢四郎さん。父と録之助を語るのが竹本越孝さん。三味線が鶴澤寛也さん。贅沢だ~。

 

伊勢吉さんの高音の声がとてもきれいで、お関の切なさ、哀しさ、哀れさが際立つ。越孝さんは、目の前の利害だけはなく、娘のことを思って諄々と言い聞かせる父親を、慈愛たっぷりに聞かせてくれた。あんなふうにお父さんに説得されたら納得しちゃう♪

 

母が言いたいことを言ってくれ、父には諄々と説かれ、お関は帰路につく。

 

録之助は、もっといい男になっていたら展開違うんじゃないの?とか最低の男じゃんとか、思わないでもないけれど(;^_^A ここは、三味線の音に身をゆだね、大通りまでの短い道を二人で歩く情景の美しさに酔うことにいたします。

「いっそ今、このまま」という気持ちも二人の脳裏に、瞬間は浮かんだはず。

でも、もしかしたら、録之助が放蕩三昧になったのは、お関に未練があったからかもしれないし、お関も離婚すれば子どもにも会えず、録之助のような寂しい人生になってしまうかもしれない。ふたりは歩きながら、さまざまな思いをめぐらせたことだろう。私たちもまた。十三夜の月が照らす夜道の美しさよ。十五夜では恥ずかしすぎる。

 

ほぅう。とため息が出るような思いで聴き終わる。やっぱりこの建物の中で聴くと一段と情緒たっぷりでよかったこと。

お食事

心地よい余韻に浸りながら、1階のお部屋でお食事をいただいた。おいしいお酒も少々。

知り合い同士で来ている人はそれぞれ、2人ずつの個室などテーブルなどに、腰をかけ。

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私はおひとり様4人で、合い向かい。最初はモゾモゾ。黙って食事をしていたが(笑)、一人の方が伊勢吉さんのお弟子さんだとわかったので、新内のお話などを伺い、楽しい時となった。

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お弁当はそれはそれは美しくて、分量も多く、どれもとてもおいしくいただいた。写真の他、お酒とお味噌汁。

 

よし梅芳町亭では、次回「お座敷で噺を聴く会」も催されるとのこと。3ヵ月先だから、また行ってみたいなあ。

 

よし梅芳町亭

次回は

「お座敷で噺を聴く会」三遊亭金長

演目 百川 他一席