「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『傾城反魂香』(けいせいはんごんこう)荒唐無稽ながら、夫婦愛にホロリ

さあ、人気演目『傾城反魂香』(けいせいはんごんこう)通称「ども又」のご紹介です。

「はあ、よかったね」という気持ちで劇場を後にできます。悪人の一切出てこないファンタジックなお話です(*^。^*)

 

登場人物(これまでのお話もからめて)

又平 絵師。後輩の雅楽之助には先を越されるし、絵もうまくならないため出世もできず、落ち込み気味。吃音の障害があり、コンプレックス高め。

妻おとく 又平がうまくしゃべれないので得意なおしゃべりでフォローしたり通訳をしたり。又平のことを心から大切に思っているので、ウソでもカラ元気を出してサポート。

土佐将監光信 又平のお師匠。元皇室のお抱え絵師だったが、トラブルあり現在京都山科で謹慎中。弟子思いの優しい人。

その妻北の方 常に弟子たちのことを思いやる心優しき奥方。

土佐修理之助 又平の弟弟子。誠意ある人。

狩野雅楽之助 絵師、狩野元信の弟子。

 

今回出ない人々

傾城遠山 土佐将監光信の娘。父の苦境を救うために遊女となった。狩野元信と知り合い、父の絵の秘技を伝える。元信を好きになるが、想いは遂げられず亡くなる。

 

銀杏の前 六角家の姫。加納元信と婚約をするが、お家乗っ取りに巻き込まれ、悪者どもに隠れ家に連れ去られてしまう。

 

狩野元信 遠山から秘技を習い、絵を極め、大名六角家のお抱え絵師となる。六角家の令嬢・銀杏の前と婚約も決まる。

しかし、六角家のお家騒動に巻き込まれ、縄で縛られてしまう。元信は、自分の肩を噛み、流れ出る血でふすまに虎の絵を描く。虎は絵から抜き出て元信の縄をちぎり、元信は逃げることができた。虎もそのまま逃走し、将監の家のそばに出没! とつながるわけです。

あらすじ

修理之助、絵から飛び出た虎を退治する

 

百姓たちが何やら、土佐将監光信の館前でがやがや騒いでいます。何事かと弟子の修理之助が聞いてみると、虎が出て、この竹藪に入ったという。

 

虎なんて、日本にいたことはないのだから、そんなことを軽々しくいうものではないと修理之助は言うのですが、奥から将監夫妻も出てきて、出ないとも限らないとたしなめます。

 

皆で竹藪をつついていると、虎が!出ました!

 

ところが何やら様子がおかしい。「これは、顔輝という画家の描いた虎にそっくりだ」と将監は言うのです。なんと絵に魂が入って、外に出てきた虎だったのです。それが証拠に、足跡はありません。修理之助は、虎を消してみせましょうと、将監から筆を受け、さっさっさと手を動かすと、アーラ不思議。虎はその姿を消したのです。

 

やんや、やんや。あっぱれなりと将監は、印可(師匠が弟子が奥義を身につけたことを認めて与える免許状)の筆を修理之助に授け、「土佐光澄」という名前も与えたのでした。

 

百姓どもも、口々に誉めそやし、「いやあ、あの絵描き殿に、美しい女性を10人ほど書いてもらって金儲けがしたい」やら「俺は借金の帳面を消してもらいたい」などとてんでに勝手なことを言いながら帰っていくのでした。

又平は、名字をいただきたく、必死に訴えるも却下される

そこへ、又平が女房おとくと登場します。来る途中で百姓たちに修理之助が虎をかき消したことで、印可と名前を授かったことを聞き、ショックを受けつつの登場です。なぜならば修理之助は、又平にとって弟弟子。又平ものどから手が欲しいほどの名前を先に弟弟子に取られてしまったのですから落胆するのも当然です。

 

又平は、口がうまく回らないため、社交的とはいえない上に、家も貧しく、大津絵と言って、観光客相手の絵を描いて売り、糊口をしのいでいます。師匠のところに来て、ご挨拶。それも又平ではなく、しゃべるのが上手なおとくが、立て板に水を流すが如く、スラスラとご挨拶。

 

「ほんにつべこべと私が言うことばっかり。こちの人のどもりと私がしゃべりと、どもりとしゃべりが、こうこうこうこう入り合わせたらよいころな。女夫が一対できましょうもの、ほほほほほ。おお、はじもじ」と笑いける。

 

明るいですなあ。又平は、そんなおとくの明るさに支えられています。ただ明るいかと思っていたのですが、実はおとくは、がっくりと落ち込んでいる又平の気持ちまでもりたてようと、カラ元気で明るく話しているんですね。

 

おとくと又平は、弟弟子に先んじられ、土佐の名字も許されて、やりきれない気持ちです。ふたりは、何とか土佐の名字をいただけないでしょうかと涙ながらに訴え、手を合わせて、泣き崩れます。

 

しかし、将監は貴人高位の人にも会う機会のある絵描きになるからには、お前のようなろくに話せないものに、名字をやることはかなわぬと、声を荒げるのでした。これも師匠の愛かなー。

 

又平、お家騒動に加勢を申し入れるが、却下される

そこへ来たのは狩野元信の弟子雅楽之助。

 

ここは、前段からくるお家騒動の話になるのですが、要するに狩野元信の許嫁である銀杏の前を敵に奪われてしまったと、手傷を負いつつ、助けを求めに来たのでした、

 

又平は、取り返すための使者になろうと申し出ますが、それも却下され、師匠たちも奥に入ってしまい、場にはおとくと二人で残されます。

又平、自害を決意し、最後に渾身の力で手水鉢に絵を描く

名字ももらえない上に、お役にも立てない。悲嘆にくれる二人。おとくは、こうなったうえは、最後に手水鉢に、立派に絵を描き、自害しろというのです。そうして、死後に「送り号を待つばかり」つまり、死後に名字を与えられることに期待するしかないというわけです。

 

おとくは墨をすり、又平はうなずき、筆を染め、手水鉢を手ぬぐいで拭うと、

〽わが姿をわが筆の、念力や徹しけん

と一気に書き上げます。

又平、奇跡を起こす

そして、おとくも一緒に死のうと覚悟を決めて、柄杓を拾おうと、ふと手水鉢を見ると、なんと、不思議なことに又平の願いが通じたのか、手水鉢の裏側に描いた絵が、厚い石を通り抜け、表まで抜け出ていたのです。

 

驚く二人。そこへ、将監がでてきて、つらつらと石面を眺め、異国では聞いたことがあるがこのような不思議な現象を日本では聞いたことはない。師匠を超える画工になったといい、土佐の名字を与えることを約束してくれました。

 

もう、又平夫婦は、大喜び。そうだ、この勢いで銀杏の前を助けにいくのだと行きかけるのですが、これこれ、そんな身なりでどうすると、将監は衣服と大小の刀を整えてくれます。

 

北の方も「でかしゃった。でかしゃった」と自分のことのように喜んでくれるのでした。

 

しかし、口ごもる癖があるけれど、敵の前ではどうしたものか。と将監が心配すると、おとくは胸を張ります。実は節がついていると、スラスラとしゃべることができるというのです。

そして、おとくの打つ鼓に合わせ、踊りを踊りながら、将監と北の方に見送られて、いざ、銀杏の前を取り戻しに、又平は出かけていくのでした。

 

みどころ

荒唐無稽な設定の中にある、夫婦愛と師匠愛

面白くないですか?この荒唐無稽さ。。まあ、歌舞伎ですから荒唐無稽は今に始まったことではありませんが…。

 

まずは、虎が出てきたが、それは本物ではなく、絵から飛び出た虎だった。なんぼ絵がうまくたって、絵が飛び出てきたり、それをまた一筆で消してみたり。

自害を決意して、手水鉢に渾身の気持ちで絵を描いたところ、手水鉢を貫いて、絵が表にまで浮いて出たとか。

 

荒唐無稽ではありますが、ストーリーの中に筋が通っているのは、又平とおとくの夫婦愛と、師匠と弟子の愛情でしょうか。

 

うまくしゃべれない又平とおとく。おとくは絵のうまい又平をリスペクトし、貧乏な家に生まれて、口がうまくないがために出世できない又平を、何とかしてあげたいと思って一生懸命です。そんな姿に、心がほんわかします。

 

また師匠も一見冷たいようですが、うまくしゃべれない弟子のことを慮っている。北の方にいたっては、無事に名字を許された又平に「でかしゃった、でかしゃった」と喜び、羽織袴を用意してやり、まるで子供を見つめる母のよう。私はとくに東蔵さんの「でかしゃった」が好きです。

 

最後に、敵に対し、うまくしゃべれるだろうかと案じる師匠に「大丈夫、節があれば、どもらないから!」とおとく。それも、おもしろいですよね。それなら、最初から歌ってればよかったじゃん!そうはなりませんけれど(;^_^A。

 

なんだなんだ。よかったよかった。それ、行ってこーい!観客全員の温かい視線を受けて、羽織袴を着てすっかり立派になった又平は、堂々とうれしそうに引っ込んでいく明るい幕切れがまたいいですね。

お話のこの後は、戦いに出た又平は、大津絵をどんどん描き、そこから飛び出してくる奴や藤娘たちといっしょに、悪人と戦い銀杏の前を救い出すそうです。それ、観たいなー♪

そして、元信は無事銀杏の前と結ばれ、又平も土佐光起として名を残すことになるのです。

概況

もともとは、上中下の三段からなり、六角家のお家騒動と絵師たちの姿を描いていますが、今は「土佐将監閑居の場」のみ、上演されます。

1708年(宝永5年)人形浄瑠璃として初演。

作者。近松門左衛門

タイトルの由来

なんで、「傾城反魂香」ってタイトルなの?って不思議ですよね。

実は、上巻にこの題名がつけられているエピソードが描かれています。

この世を去った傾城遠山が香に誘われて狩野元信の前に現れます。

煙の中に死者の姿が現れると言われているのが「反魂香」。それでタイトルにその名前がつきましたが、今上演される土佐将監閑居の場では全く関係ないので、なんだかピンとこないタイトルですね。通称「ども又」と言われており、そちらの方がピンときます。

2020年12月の配役

なんといっても勘九郎又平と猿之助おとくが楽しみ

又平 勘九郎

おとく 猿之助

雅楽之助 團子

北の方 梅花

土佐将監 市蔵

 

これはですね。。。又平とおとくが、おそらく素晴らしい。なんといっても猿之助女方は、とっても素敵なんです。

勘九郎は、しょげる又平、おちこむ又平、嘆願する又平、驚く又平、喜ぶ又平、踊る又平、元気にひっこむ又平。どれもこれも十二分に又平っぽく演じてくれることと思います。鼻水たらしながらの熱演に期待したいです。

猿之助のおとくは、もう愛情たっぷりのおとく。一生懸命又平のためにしゃべり倒すおとく、しっかり自害せよと説得するおとく。ああよかったとホッとするおとく。

どれもおとくよりもおとくらしく演じてくれるのではないでしょうか。は~楽しみですね。

 

上演スケジュール・チケット値段・チケット購入場所

 

第一部 午前11時~

第二部 午後1時30分~

第三部 午後4時~ ←傾城反魂香はここ

第四部 午後7時15分~ 

12月のほかの演目ざっくり紹介はこちら

munakatayoko.hatenablog.com

 

開場は開演40分前

 

休演は8日(火)、18日(金)

 

1等席 8000円

2等席 5000円

3等席 3000円

 

チケットは、歌舞伎座木挽町広場チケット売り場、または

チケットWeb松竹

 

 にて購入できます。