「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

文売り 2020年11月国立劇場 色っぽくて、優雅にして美 

江戸時代には、正月から15日の京の町では、恋文に似せた祝言の文章を記したお札を売る風習があったとのことです。色っぽいですなあ。

 

文売りの名前は、その時々の役者にちなんだものになることが多いので、今回は梅枝にちなんで「お梅さん」が登場かな。

 

梅の枝に文をつけて、売って歩く文売りは、様々な恋模様を物語っていきます。

 

聴き所は、三味線、清元の切ない語り、そして、見所は美しい「文売り」今回は梅枝丈です。

 

とにかく、美しい。面長の顔、小さく少ししゃくれた唇、流し目、肩から手の動き、とにかく、浮世絵からそのまま出てきたような梅枝丈の美しさに見とれてください。

 

美しすぎて、気持ちが良すぎて眠くなります(;^_^A なので、清元の語りが何を語っているのか、わかっていた方がよいかと思います。

 

遊女の恋心から、遊女同士が男をめぐっての喧嘩話を語っていきます。

 

最初のほうは、言いたいことは山ほどあるよ、と遊女が好きな男への想い。そして、

小田巻という傾城が、ある男に惚れて、三万三千三百三十三本もラブレターを書いたんですって。

それでも全然返事がなくて、腹をたて、ねんごろになっている別の遊女に

「あの人を、今日から私にくださいな」と、ずっかりと申し入れる。

云われた遊女もおもしろくないから、

 

「小田巻だか、くだ巻だが知らないが、

せっかくの申し出だけれど、

まあ、もう百年もたったら

松葉杖でも添えて、あのヒトあげましょ」

 

なんて言って、思わず手が出る。

つんのめって、下に落ちる。

顎を打って、わあわあ、小田巻は泣く。

小田巻の取り巻き、果ては、仲居や飯炊き、あん摩まで巻き込んで大騒ぎ、ネコがネズミをくわえて駆け出し、イタチが踊りだすほど。上を下への大騒ぎとなってしまったよ~。

 

アメリカの映画なら、ピザの投げ合い、ビール瓶は砕け散り、八百屋の屋台はぶちまけられ、オレンジがゴロゴロところがっていき、というところだけれど、まあそんな情景が、優雅に優雅に語られ、踊られるんですねえ。不思議!

 

あまり、色っぽくて素敵なので、文に起こしました。

 

同じみすぎのさまざまに

めでたき春のけそう文

これは恋路を売り歩く

文玉章のかずかずは

くぜつ上手に惚れ上手

または相惚れ片思い

縁の種をむすび文

これも世渡る習いかや

 

さあさあこれは色を商う文売りでござんす

私が商う文のかずかずは

宵の睦言まだなこと、まあ、聞かしゃんせ

流れせわしきうきつとめ

かわる夜ごとのその中に

惚れた男の意地悪う

オットよしても暮れのかね

その手で深みへ又俺を

かける心と見て取った

 

どりゃと立つのを引き留めて

今日はとりわけいろいろと

云うこと聞くことたんとある

その約束でけさ早う

ござんすはずを憎らしい

 

初の逢瀬のきぬぎぬに

おくる出口のうれしさを

心に思うありたけを

云い交わしたをなんじゃいな

 

野暮なくぜつのただなかへ

降ってわきからただ一人

同じ廓に小田巻という傾城が

毎晩送る文のかずかず

 

三万三千三百三十三本ほど

指に廓の文づかい

 

返事のないに腹たてて

顔に紅葉の打掛を

取って脱ぎ捨てわたしがそば

 

これかつみさん いやなお方に惚れはせぬ

今までお前が大事にした

アノさんを今日から私にくださんせ

 

もらいに来たとずっかりと

こっちも日ごろの癇癪酒

 

これ小田巻とやらくだ巻とやら

せっかくお前のご無心じゃが、

もう百年もたったのち

松葉を添えて、主さんあぎょう

 

あだばからしいといいさまに

突のくはずみばたばたばた

縁から下へ落の人

 

あ痛たたと泣き出だす

騒ぎの声に小田巻が

やりて引舟仲居飯炊き

出入りの座頭あんまとり

 

神子山伏に占やさん

せった片しに下駄かたし

わらんずがけでくるもあり

台所から座敷まで

太夫さんの仕返しと ココでは打ち合い

つめり合い

ちょうし かんなべふみかえし

そりゃこそ津波がうちまぜて

隠居が子をうむヤレ取り上げて

ソレかつをぶしよ すり鉢よ

がらがらぴしゃりとなる音に

 

桑原桑原観音経

 

ひそうな小猫が馬ほどな

ネズミをくわえて駆け出すやら

屋根ではいたちが踊るやら

 

神武以来の悋気いさかい

此事世上にしられけり

 

よどまぬ水に月影も

しばしとどむる逢坂の

関に残せし物語り

 

いさましかりける

 

 

「文売り」は、文政3(1820)年、江戸玉川座で上演された「花紅葉士農工商」の中の「商」の部分として3世坂東三津五郎によって初演されました。

 

2020年国立劇場にて。