「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

酒を飲むまでの宗五郎をじっくり味わおう。新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)~魚屋宗五郎 

すでにこのブログでは紹介していましたが、2020年10月国立劇場のものを観たならば、あんまりよかったものだから、また書いておく。観方もちょっと変わりました。

 

あらすじと見どころについては、こちらに。

http://munakatayoko.hatenablog.com/entry/2017/07/30/151941

 

 

本稿では、2020年10月の宗五郎について書き留めておく。

 

2020年10月の配役

 2020年10月の配役は以下の通り。

魚屋宗五郎 菊五郎

女房おはま 時蔵

宗五郎父太兵衛 團藏

小奴三吉 権十郎

磯部召使おなぎ 梅枝

酒屋丁稚与吉 丑之助

おしげ 菊史郎

家老浦戸十左衛門 左團次

岩上典蔵 片岡亀蔵

磯部主計之介 彦三郎

 

3年前の團菊祭とほぼ同じ布陣。最強菊五郎劇団と言われる所以だ。

役が替わったのは、

岩上典蔵が市蔵⇒片岡亀蔵 磯部主計之介が松緑⇒彦三郎。それから、そうそう忘れちゃいけない酒屋の丁稚が眞秀くん⇒丑之助くん

 

酒を飲むまでの宗五郎を、じっくり味わおう

 

魚屋宗五郎を、初めて見たときは大いに楽しく、2回目以降は、宗五郎が酒を飲み始めてからが面白いものだから、早く飲まないかと前半の見方をおざなりにしてワクワクして楽しみにしていたような気がする。しかし、それはまちがっておった!

 

前半の宗五郎が男前でかっこよくて、いなせであればあるほど、後半のめちゃくちゃぶりが活きるわけで、そういう意味でも今回の菊五郎は最高なのだ。

 

飲み始めるまでの宗五郎の、実にいい男っぷり。前回に比べ、ややほっそりした感じの菊五郎は、すばらしくいい男っぷりだった。惚れる。そこをじっくり見てほしい。

 

幡隨長兵衛や、め組の鳶頭辰五郎に負けるとも劣らない、冷静でリーダーシップがあって、イケメンで、家族や仲間たちを心から愛してやまないみたいな男なのだ。…酒さえ飲まなければ。

宗五郎はあとではちゃめちゃに酔っぱらうから、すっかりその男ぶりを忘れてしまう。そこがまた宗五郎の魅力でもあるのだけれど。

だからこそ、酒を飲む前の宗五郎を、しっかりと見ておきたい。

 

花道から出てきたところから沈んだ面持ちで出てくるそのいなせなことと言ったらどうだ。

元気ないねと言われて

「年に一度のお祭りも妹が死んだので祭りどころじゃございません」と沈んだ様子。

 

そして、憂さ晴らしでもしたいところだが、禁酒中のため「飲むわけにゃ参りません」ときっぱりと断る。

 

帰宅後は、沈む気持ちを抑えながらまだあちこちに知らせないようにとか、来客の相手、客が帰るときに見送りに立とうとするおはまを「今日は送るもんじゃあねえよ」と制するなど、的確な対応。さらに殊の外落ち込んでいる父太兵衛が「屋敷にいって殿のやろうに思い入れ言い草をいってやりてえが、」もう体力もなくてその力もないのが悔しいと言って嘆くのを聞いて、はまにお前が替わりにいってやんな!と言われるが、落ち着けと制する。

 

殿様には厚いご恩があるだろうと、みなをたしなめるのだ。お蔦を女中にやったことで支度金を200両いただいた。借金ずくめだったのが、それで身なりを整えることもでき、借金も返し、お手当もいただいた。お蔦はお手打ちになっても仕方がないようなことをしたのだろうと、たしなめる。妹を殺されて、どれだけ辛いだろうに。冷静沈着で、義理と人情に厚い宗五郎を、ここでたっぷり味わっておきたい。

 

機先をそがれた周りのものは、酒でもいっぱいと勧めるが、それも断る。

 

ところが、事情が変わるのは磯部屋敷から女中おなぎ(梅枝)が来て、事実を告発したためだ。(お酒を持ってくるのが、孫の丑之助君。大きくなってしっかりしてきた!)

 

一大決心で事の顛末を告白してくれるおなぎの演技にも注目。

実は、お蔦は岩上典蔵に横恋慕にあったあげく、悪だくみを聞いてしまったものだから濡れ衣を着せられて殺されたのだという。

 

そうなれば、話が違う。おなぎの持ってきたお酒を飲み始めた宗五郎は…と話しは続くのは

件の通り。

 

酒を飲んで大暴れ、止めてはいる三吉、おはまとの攻防も見事。

 

「おかみさんたち周りが止めてくれなきゃ、宗五郎一人では酔っぱらえませんのでね。このひと月、毎回これが最後となってもと、そんな気持ちで勤めます」と菊五郎は言う。

 

コロナ禍にあっては、そんな言葉も決してオーバーではない。観客も「一期一会」「今日観られることの幸せ」を思って楽しみたい。

 

ところで、余談だが、周りが止めてくれるから暴れられるというのは、昔の男っぽくて現代では受け入れられないだろうけれど、なんか既視感がある。と思って考えていたら、向田邦子原作の「寺内貫太郎一家」だ。

小林亜星演じる親父が、気に入らないことがあるとすぐにちゃぶ台をひっくり返して大暴れし、周りが大騒ぎして止める。「あ、来るな」と察すると、悠木千帆(樹木希林)がひょいとちゃぶ台をどけたり、ちゃぶ台は無理か、土瓶だったかな。さっとどける呼吸が絶妙だった。

宗五郎の女房おはまもさっとどけたりしている。「寺内貫太郎一家」の原型が宗五郎なのかな、などと考える。当然向田邦子は、宗五郎を観たことがあるだろうな。

 

さて、その後宗五郎は屋舗に乗り込んで、さらに暴れてそのあと。

 

ご家老様に言うセリフ、これがまた難しいと思うけれど、心を打つ。

お金がなかった時に殿に200両を下さったときのありがたさ。

それをもとでに借金を返し、さらに商売の資金にし、次第に魚も売れていった。

「毎日、銭が儲かってね。好きな酒をたらふく飲み、なんだか心が面白くってね、親父も笑や、こいつ(おはま)も笑い、わっちも笑って暮らしやした。ハハ…、ハハハ…、ワハハ…。ああ、面白かったね、だがね、」

 

ここのセリフがていねいで実に良くて、心にしみじみしみわたる。魚屋一家がよかったねえと幸せそうに笑いあっている姿が目に浮かぶようではないか。

 

菊五郎もうまいが、やっぱり黙阿弥が最高なんだな。

 

この後典蔵が悪だくみをしているひそひそ話は、今回カットだったが、特に問題ないと感じた。

 

そのあと、酔いつぶれて寝てしまい、目が覚めてからは酔いもさめ、しょぼくれちんになってしまう宗五郎。

 

潔く死んでいく幡隨長兵衛とも違うし、ライバルチームと和解して解散していく辰五郎とも違って、「へい」と小さくなって頭を下げる宗五郎だが、なんとも人間味あふれる魅力いっぱいの主人公だ。

 

国立劇場は、1等席でもまだ空いているし、7000円で、「魚屋宗五郎」のあとの「太刀盗人」も観られるので、最高ですよ。久々に「歌舞伎観たぞ~」な気分を味わえるので、ぜひこの機会に!

 

上演は10月27日(火)まで

新皿屋舗月雨暈 15:30~16:45

30分幕間

太刀盗人    17:15~18:00

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国立劇場

https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu.html

 

1等7000円(学生4900円)

2等(2階)4000円(学生2800円)

3等(3階)2000円(学生1400円)

 

安いっすねえ。しかも前後左右空いている。見やすい!

 

チケットはこちら。

国立劇場チケットセンター(10時~午後6時)

電話0570-07-9900/03-3230-3000

インターネット https://ticket.ntj.jac.go.jp/

 

 幕間でクリームあんみつを食べてしまった。おいしかった。

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