世話物ですから江戸時代の現代劇です。
【概要】
ジャンルは世話物。世話物というのは江戸時代の現代劇です。文七元結は三遊亭円朝という噺家が口演した人情噺が元になっています。歌舞伎は、落語がもとになっているものも多いんですよ。当然わかりやすくておもしろいです。文七元結は、ゲラゲラ笑うというよりは、しんみりほのぼの、ほっこりあったか。とても心が温かくなる作品です。ちょっと疲れてやさぐれている人、おすすめですよ。
歌舞伎と言っても、きれいな衣裳やわかりにくい義太夫、荒唐無稽のストーリー、仇討ち、子殺しばかりではないということを知るためにもぜひ一度見てほしい作品です。
【登場人物】
左官長兵衛 (尾上菊五郎) 左官の職人。職人気質の江戸っ子で、人情深いがばくち好きなのが玉に瑕。
女房お兼 (中村雀右衛門) 長兵衛の妻。ばくちですってんてんになる夫を支えているが喧嘩になれば負けていない。
文七(中村梅枝) 和泉屋手代。親兄弟もなく、和泉屋でまじめに働いてきた。囲碁が好き。
お久(中村莟玉) 長兵衛の娘。親孝行で、年の瀬を越えられそうもない我が家の窮状に心を痛める。
角海老女房お駒 (中村時蔵) 吉原の角海老の女房。幼いながら自分で身売りをしてきたお七に同情し、長兵衛にお金を貸してやる。
【あらすじ】
左官の長兵衛は、ばくち好き。すってんてんになって家に戻ってきた。すると真っ暗な家の中で待っていた女房お兼が言うには、娘が帰ってこないとのこと。
実は、お久は我が家の窮状を察し、借金を返すために、吉原の角海老に身を売り、お金を作ろうとしていた。
角海老の女房は、不憫に思い、50両を長兵衛に貸し、そのかわりに来年の3月までに返すように言う。まじめに働き、ばくちをしなければ返せるはず。それまではお久を店には出さないが、借金が返せなければ店に出すという。
2度と酒もばくちもやらないと心に誓い、帰り道。長兵衛は、50両を摺られてしまい自殺を試みている青年に出会い…。
というお話。
【見どころ】
★菊五郎の名演技。幕があくと、暗い照明。貧乏長屋です。
「おう。今けえったぜ」という菊五郎の声が闇の夜に響きます。菊五郎演じる長兵衛が、実に江戸っ子気質で気前がよく、おかしみがあり、ちょっと寅さんチックなところがあり、笑わせてくれるのですが、そのあたたかな心意気にぐっと来ます。
★長兵衛だけではなく、悪い人が一人も出てこないので、安心してみていられます。
★長兵衛妻のお兼、文七、お久、お駒、どの人も決して豊かではない暮らしの中で、人情を大切にして、一生懸命生きています。
今は便利な世の中ですが、これほどちゃんと人と向き合ったり、思いやりを持って人に接しているかなとちょっぴり反省もさせられます。
★かわいい子役は寺嶋眞秀くん。寺島しのぶさんの長男で、菊五郎の孫。今回初女形かな。とてもかわいいので注目してくださいね。
ちなみに今月のこの演目を観る場合、売り出し5時半。上演は6時20分から7時35分。1400円です。安っ!人間国宝だじぇ。