「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

廓文章 吉田屋~あらすじと見どころ

 さて、今月昼の部で最もおすすめなのは、こちら

「廓文章 吉田屋」です。

 

 

■概況

作者: 不詳ですが、実在の遊女「夕霧」をモデルにして近松門左衛門が書いた「夕霧阿波鳴渡」吉田屋の段を書き換えた人形浄瑠璃です。

歌舞伎での初演は1808年(文化5年)

 

■登場人物 

伊左衛門:典型的な若旦那。遊びすぎで勘当されたが、憎めないぼんぼん。

夕霧:実在した遊女。

喜左衛門・おきさ夫婦:

 

■簡単あらすじ

恋人の傾城「夕霧」に入れ込みすぎて勘当になった藤屋の若旦那伊左衛門が、久しぶりに新町の吉田屋に会いに来る。恋煩いでふさぎ込んでいた夕霧と再び会うことができたのに、なかなか来ない夕霧を待ちかねてすねたり、文句を言ったり、わがままを言ったり。

でも結局、仲直り。実家からの勘当もとけて、千両箱まで届いちゃって、無事伊左衛門は夕霧を身請けしてめでたしめでたし。ホント他愛のないストーリーですけれど、お正月なんで楽しく楽しく!

 

■もう少し詳しいあらすじ

 

幕開け。暮れの風景です。お正月の用意で、餅つきをしている吉田屋。お大尽が現れて「夕霧を連れて来い」と駄々をこねている。

夕霧を連れてくるには花がいりまする。

よしよし、花が必要なら今なら梅の花がよかろう。

ああ、もしもし花というのはその花ではなく、小判のはなでございます

ああよしよし。しからばその小判を遣わせばよいのじゃな…

 

なーんて、お大尽様が景気よくやっている様子。お餅をついたり、お金をばらまいたり、

そうこうするうちに花道から伊左衛門が登場です。傘で顔を隠し、紙でできた着物を着てみすぼらしい様子を表しています。けど粋。

 

みすぼらしい癖に、吉田屋店主の喜左衛門を呼びます。

 

若い者がじゃらじゃら出てきます。こんなみすぼらしいやつ、ご主人に会いたいとは何をずうずうしいことを言っているんだと。

 

外の騒ぎを聞きつけて店の主人、喜左衛門が出てきます。顔を確認して、若旦那伊左衛門だとわかり、若い者たちを下がらせて、中に呼び入れます。

 

喜左衛門夫婦の気配りで、中に入れてもらえたものの、夕霧はほかの客の相手をしていてなかなか来てくれません。伊左衛門イライラが募ります。

 

三味線をつま弾いてみても、太夫とが連れ引きでひいたときの面白さなどが思い出されて、面白くありません。

 

あの歌を聴くにつけ、昨年の月見は奥座敷で、太夫とわしが連れ弾きで、ひいたときの面白さ。弾くその主は変わらねど、変わったあいつが心底、あのような心であろうとは。

  思わぬ人にせき止められて、今は野沢の一つ水

いかさまなあ、恋も情けも世にあるとき、人の心は飛鳥川、変わるは勤めの習いじゃもの。こりゃ、思い切って帰りましょう。さりながら、喜左衛門夫婦の志、会わずに去んではこの胸が

  済まぬ心の中にもしばし、澄むは由縁の月の影。

 

清元が切なく心情をあらわし、情緒豊かです。

 

もう行ったり来たり。しょうもない伊左衛門です。

 

落ち着かずにウロウロしたり、すわってみたり、こたつにもぐってみたり。

来たと思ったら禿だったりして。こたつでふて寝をしてしまう。

そこへやっと夕霧が登場です。

 

紫のハチマキは、病の印です。

 

ふて寝を決め込む伊左衛門を ゆりおこし、ゆりおこし。

 

すっかりゴキゲン斜めの伊左衛門

「夕霧どのとやら、夕飯どのとやら。こなたのようなひまではござらん。夜昼稼ぐ伊左衛門。こんなときでないとねられぬ。邪魔しやんな」

なんて、完全にすねています。

 

夕霧涙もろともに。去年の暮れから丸一年。2年越しに訪れなく、それゆえにこの病。と嘆きます。

 

なんだかんだと言いつつも、そこは愛し合っている二人ですからようやく仲直り。膝に引き寄せて、にっこり。

 

そこに勘当がとけたというお知らせ身請けのお金(なんと千両)もとどいたというお知らせ。

しめておめでとうござりまする。となります。

あほくさ!でもまあ、よかったね!というお芝居です。

 

■見どころ■

★伊左衛門の登場

紙衣の着物を着て、花道から登場する伊左衛門。みすぼらしい境遇だけれど、もともといいとこのお坊ちゃんなので、貧相ではない。

 

※紙衣―落ち目の境遇になって着物が買えず、和紙で作った着物。山男が新聞紙で体を包むと温かいように、実際には温かいようですが、歌舞伎ではみすぼらしい境遇の象徴。でも、使っている紙は、夕霧からのラブレターをつなぎ合わせたものですって。実際には、紙でつくられているわけではありません。

 

※差出-花道からの登場のときに、前後に何やらフワフワと。人魂ではありません。黒衣が燭台にろうそくをともしているのです。これは江戸時代、照明が十分ではなかったときに役者の顔を見せるために使われた演出で「面明かり」ともいわれています。

★傾城の中の傾城!夕霧 

最高峰の遊女ですが、実在の人物です。

 

★上方和事の色男とは

上方の色男は、はんなりしていてやわらかです。江戸の荒々しい色男とはちょっと違います。今回は江戸風の伊左衛門を幸四郎がどう演じるか。

 

★ふすまの演出

なかなか来ない夕霧を探して、伊左衛門が店の中をあちこち探しに行くところがあります。ふすまを開けると、また次のふすま。あけるとまた次の…。とまるで入れ子のように次々ふすまが出てきます。これは、狭い舞台で広い吉田屋を表現するための演出です。豪華な吉田屋の中をぐるぐる回って夕霧を探している風景を思い浮かべてください。

 

★現代でも通じる?恋人あるある

・会いたかったはずなのに、いざ会うとなぜか喧嘩になっちゃう。恋人同士のあるあるですよね…。なかなか来ない相手に、会うまではイライラ。いっそこのまま帰ってしまおうか。いやそれでは、間に立った人に悪いと言い訳つけてウロウロ。さんざん待たされると、やっと会えても素直に喜べない。

伊左衛門は、どうしようもないボンボンですけれど、そんな恋人同士の情景は、現代の人も共感を持てるはず。どんなにイケメンでも恋に夢中なときは、滑稽なもの。伊左衛門の滑稽さに思わずほほが緩んでしまいますね。

 

今月の役者についてもっと知ろう!

松本幸四郎 (昭和48年生まれ)

昨年幸四郎を襲名。1年かけて襲名興行を行って弁慶などの骨太の役にも挑戦して成功をおさめましたが、本来は、伊左衛門のような役がニンだと思う。清元による江戸式で伊左衛門を演じるのは初めてとのこと。しっかりと目に焼き付けたいですね。生き生きと演じています。

 

中村七之助(昭和58年生まれ) 

故18世中村勘三郎の次男。(長男は勘九郎。現在大河ドラマいだてんで出演中)昨年は、コクーン歌舞伎や、10月の助六の相手役揚巻を見事演じて、今や飛ぶ鳥を落とす勢い。女方の中でもその演技力、美貌は誰もが認めるところ。いろいろな役者が夕霧を演じているが、やっぱりきれいなのが一番!玉三郎の後継者(の一人)として、着実に歩み続けている。夜の部の「八百屋お七」もいいぞお~!お時間ある人はぜひ!

 

この二人の吉田屋。本当に楽しみですね!美しい夕霧、コミカルな伊左衛門二人の恋路をゆったりと楽しみましょう!