先日、弁天娘女男白浪について書きましたが、今日はもう少し詳しく。
ここ、わかっているともっと面白いよ。というところ。
カンタンな筋と見どころについては先日のブログこちらをご覧ください。
ではもう少し深掘り!
浜松屋の場で、最初に出てくるあの男は?
浜松屋の最初の場面、最初に出てきて、ワーワーいちゃもんつけていなくなった男。覚えていますか?
あれは、悪次郎と言って日本駄右衛門一味の仲間です。
何を、ワーワー言っていたかというと、注文した友禅の五枚の小紋を催促しに来たんです。
注文した友禅の五枚の小紋…。
わかりますか?
そうです。稲生川勢揃いの場で、追手に追われているにもかかわらず、みんなパリッとした恰好で自己紹介をしますね!(ツラネと言います)
ではそれをいつ、手に入れたのでしょうか?
それは、前回のブログでも書きましたが、上演されずに省略されている<蔵前の場>の最後で渡されます。そして着替えて勢ぞろいをするわけですね。
悪次郎は、出番は最初だけではありません。
極楽寺大屋根立腹の場で、最初に弁天小僧菊之助とやり合う敵、それが悪次郎です。悪次郎は味方でしたが、裏切って「胡蝶の香合」という宝物を狙いに来たのです。
「胡蝶の香合」は、悪次郎の手によって下の滑川に投げ捨てられてしまいました。そして、ああっと思う間もなく次々と現れる追手。
追手をすべて切って、追い落としたあとで、観念して切腹をして果てる菊之助のセリフ。
「家の宝の胡蝶の香合、幸兵衛殿に渡さんと、思いし事も水の泡。下は早瀬の滑川。逆巻く波に行方さえ、誰白波の身の終わり。弁天小僧菊之助が最後のほどを見物しろ~ぃ」
ん? 「幸兵衛殿に渡さんと、思いしことも水の泡」とはどういうことでしょうか?さっきあんなにゆすったり脅したり、さんざんやっていたのに。
弁天小僧菊之助の実の親は…だれ?
そこで、カットされている<蔵前の場>が重要になるわけです。
<蔵前の場>では、
・玉島逸当にお礼をするために幸兵衛がもてなしていると突然玉島逸当が「有り金全部出しやがれ」と刀を振りかざす。実は玉島逸当は、日本駄右衛門だった。弁天小僧や南郷力丸もグルだった。
・話しているうちに、幸兵衛と宗之助親子は実は本当の親子ではなく、幸兵衛の実の息子が弁天小僧菊之助。日本駄右衛門の実の息子が宗之助ということがわかる。
という展開になっています。ビックリですね。歌舞伎ではよくある「実は…」です笑。
真実がわかって、日本駄右衛門は、実の息子宗之助に「幸兵衛を実の父親だと思って孝行を尽くし、もし自分が死んだら花でも手向けてくれ」と頼み、幸兵衛は実の息子菊之助に、実は自分は元武士であったことを告げ、紛失した主家の重宝「胡蝶の香合」を探してほしいと頼むのです。そのため、どうしても実父・幸兵衛に「胡蝶の香合」を渡したかったのですね。
落とされたときの「はっ」という叫びは強欲なものではなく、父を思う気持ちがこもっているのだと思います…。
最後がよくわからなかった人は、だれ?
立腹を切って、どんでん返しで終わりでもよさそうなものだけれど、その後の極楽寺山門の場と滑川土橋の場がなんだかよくわからんという方、いませんか?
山門の場は、ちょっとした「楼門五三桐」というしばいのパクリです。そこに出てくるのが青砥左衛門。「楼門五三桐」では石川五右衛門が屋根の上から、「絶景かな絶景かな。そこへ下手に真柴久吉が現れる。五右衛門がぴしゃっと手裏剣を投げると、はっしと久吉がその手裏剣を受け止めるという芝居なのですが、構図がそこと同じです。(手裏剣はないです)
あらすじ的には、悪い裏切者がまた二人出てくるので、日本駄右衛門が追い払います。
さらに、その後の滑川土橋の場では、日本駄右衛を追い詰めた伊皿子七郎と木下川八郎を青砥左衛門が押しとどめます。藤綱が手に持っているのは川に落ちた「胡蝶の香合」でした。拾い上げていたのです。これをちゃんと主家へ返しておくぞと言ってくれたので、日本駄右衛門も安心して「では観念してお縄にかかろう」とします。
藤綱は「窮鳥懐に入るときは、漁師もこれを取らず」ということわざをたとえにして、駄右衛門を見逃してやることにし、駄右衛門がその場を去るというところで終わりということになります。
そこまでわかっていなくても、十分楽しめる。でもわかっていると、さらに楽しめる。そんなところです♪
勢ぞろいの場での衣裳も凝っています。
弁天小僧:名前にちなんで、菊模様
忠信利平:神出鬼没を表す雲竜の柄
赤星十三郎:朝のときを告げる→明け方にちなんで、鳥と星
南郷力丸:荒くれ物の象徴であるいなづま模様
すべてツラネのセリフの中に関連したものが衣裳に入っているんですね。
なかなか奥深い、白波五人男。今になるまで人気作品として上演されているのも当然ですね!
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