「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

勘平あわれ 六段目 与市兵衛内 の場

2021年5月第2部 は仮名手本忠臣蔵の、「道行旅路の花聟」と、六段目です。

この稿では、六段目の説明をします。

 

「道行旅路の花聟」では、おかると勘平は、手に手を取っておかるの実家に逃げていきましたね。

詳しくはこちら。

munakatayoko.hatenablog.com

では、六段目にGO!

 

 

五段目では、ある夜、事件が起こり、勘平は自分がおかるの父親を殺したと勘違いをしてしまいます。六段目はその続きです。

六段目の登場人物(五段目の動きから)

判人 源六 祇園よりおかるの迎えに来た

一文字屋お才 祇園よりおかるの迎えに来た

勘平 おかるの恋人。塩冶判官が刃傷沙汰に及んだ時、おかるといちゃついていたため、お城にもどれなくなり、そのままおかるととんずら。今はおかるの実家に身を寄せているが、先崎弥五郎らが敵討ちを画策していることを知り、御用金を調達して仲間に入れてほしいと思っている。

ところが、ある夜イノシシを狙った銃弾が人に当たり、うろたえる。しかし、袂から50両のはいった財布を取って、逃げかえってしまう。御用金にして仲間に加わりたいという思いである。

おかる 御用金を調達するために、身売りを決意。

おかや おかるの母。

与市兵衛 おかるの父。勘平が敵討ちのためのお金を調達したいことを知り、祇園に行っておかるの身売り話に話をつけたが、帰る途中に斧定九郎によって殺されてしまった。

原郷右衛門 塩冶家家来。

先崎弥五郎 塩冶家家来。五段目で勘平と偶然会い、亡君供養の石碑建立の資金(というたてまえの軍資金)として勘平から50両を受け取った。

 

 六段目では、勘平が自身で義父を殺したことに責任を感じて、切腹をしてしまうのですが、勘違いで、死ななくてもよかったのに死んでしまう勘平の哀れさ。勘違いで勘平を責め立ててしまったおかや(義理の母)の悲しみ。何も知らずに身を売られていくおかるのいじらしさなど、千々に心が乱れまくります。暗い場面ですが、最後は少しは救われるのかな。そうでもないか。

今回は、勘平を菊五郎!親父様がやるんですね。これは見なくっちゃイケません!

また、こういう役をやらせると天下一品の東蔵のおかや。情にもろく、一途で正直者のお母さんです。お見逃しなく。5月3日の紀尾井町家話で、東蔵さんの息子の松江さんが「(父、東蔵は)おかやをやるために準備をしてきたのに、初日が延期になってとてもがっかりしている」というようなことをおっしゃっていました。

 

東蔵さん!観に行きますからね!幕があくのを待ってます!(涙)

 

あらすじ

 帰ってこない与市兵衛

おかるの家に、祇園から源六とお才が来ています。ふたりは身売りの決まったおかるを迎えに来たのです。身請けのお金は100両。そのうち50両は、昨日のうちに与市兵衛に渡したということでした。

 

ところがまだ与市兵衛は帰ってきません。お才の話によれば、なるべく早くこの金を渡したいということで、昨日のうちに帰ったというのに、まだ家についていないというのはどういうことかとおかやは気をもんでいます。

 

そうはいっても源六たちは、早くおかるを連れて祇園に戻りたい。残りの50両を置いて、おかるを駕籠に乗せ、無理やり行こうとしたところを帰ってきたのは勘平です。

 

 

「与市兵衛は、50両もって帰ったということなら、おかるを連れて行くのは与市兵衛が戻ってその50両を確認してからでもいいのでは」

と主張する勘平。

「ともかく契約は成立したのだから、早く行きたい」源六。

一触即発の雰囲気となります。

 

舅殺しの疑惑に震える勘平と次第に婿を怪しむおかや

 

お才が、おちついて事の次第を確認していきます。証文もある。印形も与市兵衛のものに間違いがない。そして、

「前金の50両を腹巻きに入れようとするので、物騒だから財布を貸した」と、貸した財布と同じ柄の財布を見せます。

 

その財布を見てぎょっとする勘平です。

 

昨晩、銃で誤って殺した男。その顔までは、暗くて自分は確認しなかった。しかし、その男から盗んだ財布は、まさにこの目の前にある財布と同じ柄……。ということは、自分は舅どのを殺して、金を盗んだということか……!?

 

勘平は呆然自失、鉄砲で胸を打たれるほどの衝撃を受けます。

とっさに、夕べ、舅殿と会ったといい、一応その場の皆を安心させて、源六、お才は、かるを連れ、祇園に戻っていきます。

 

おかやと勘平がふたりきりになったところで、何気なくおかやは「一体どこで親父殿に会ったのだ?」と聞きますが、うろたえて、はっきり返事もできません。おかやが次第にいぶかしく思うところに、やってきたのが猟人たち。

おかや、勘平を責め立てる

 彼らが戸板に乗せて運んできたのは、なんと与市兵衛の死体でした。

 

はじめのうちこそ、「婿殿、この仇はしっかり討っておくれ」と泣くおかやでしたが、死んだ与市兵衛を見ても、驚きもせず呆然としている勘平の様子を見て次第に、気づきます。

 

「昨日、どこで親父殿に会ったのだ。その時親父殿は何か言っただろう。何を言ったのだ。金を渡さなかったのか。何もお前にはこたえられないだろう。なぜならお前が、親父殿を…」

 

と勘平の袂に手を入れ、財布をひきだします。血の付いた財布を手に、お前が親父殿を殺したのだなと詰め寄るおかや。

 

「この財布に入っていた金は、もともとお前に渡すはずだった金なのだぞ。飼い犬に手をかまれるとはこのこと、ようもようもこのようにむごたらしゅう殺したものじゃ。やいやい、ここな鬼よ、蛇よ。親父殿を戻してくだされ」と叫びます。

 

普段温厚で、やさしかったおかやだけに、この怒りが、痛々しくも切実に胸に響きます。

 

勘平とて、おかやの怒りを真っ向から受け止めてしまいます。

 

〽身の誤りに勘平は、五体に熱湯の汗を流し、畳に喰いつき天罰と思い知ったる折こそ

 

そんなところに侍が二人やってきます。それは原郷右衛門と先崎弥五郎。

「浪人の身でありながら50両という大金を調達したのは感じ入るが、不忠不義を働いた者の金子を使うことはできないので、封をしたままお返しする」との由良助の言葉を告げるのでした。

 

おかやは、身も裂けんばかり。50両を渡しただと?やっぱりお前がやったのか。

「夫が婿のために娘を売って作ったお金。それをこいつは待ち伏せして殺して取ったのです。仇を討ってくださりませ!」

 

と腹の底より振り絞るようなおかやの叫び。

勘平切腹。「色にふけったばっかりに」

 

弥五郎と郷右衛門は驚き、その非道を責めますが、勘平は必死に観の潔白を述べるのでした。そして、刀を腹に突き立てます。!

「色にふけったばっかりに、大事の場所にも在り合わさず、その天罰にて心を砕き、御仇討ちの連判に加わりたさに、調達の鐘もかえって、石瓦」と嘆きます。

 

弥五郎たちは子細を聞いて、詳しく与市兵衛の死体を調べると、死因は鉄砲傷ではなく、刀傷であることがわかります。

 

切腹する前に調べてよ~~~(叫)

 

二人の侍、よくよく考えると途中の道で鉄砲を受けた死骸を見たことを思いだします。顔をみたところ、斧定九郎でした。斧定九郎といえば、強欲非道の九太夫の息子。(九太夫は塩冶家の家老ですが、高家に寝返っています) 定九郎はその九太夫が勘当したというほどの、どうしようもない悪党なのです。

疑い晴れて、仲間として認められる

 与市兵衛を殺したのは定九郎に違いない。それを撃ったのであれば、勘平は舅を殺したかたき討ちをしたことになる。あっぱれな働きといえるのではないか。

と晴れて勘平は汚名をそそぐことができました。連判状に血判を押し、勘平は仇討ちの仲間として認められたのです。しかし、傷は深く皆に見守られながら息絶えるのでした。

 

みどころ

勘平が「舅殿を殺したかも」と悟った瞬間

 しかし勘平という男は、運がないというか、勘違いが過ぎるというか。殿の一大事のときにたまたまデートしていたために、はせ参じることができなかった。今度は、舅殿を殺していないのに殺したと勘違いして切腹とは…。

 

自分のために、金を調達してくれた恩のある舅を、自分は故意ではないとはいえ殺してしまった。しかも自分のために用立てた金を死体から盗んでしまった。

 

このショックというのは、どれほどのものなのでしょうか。結局勘違いだったというから余計悲しいですね。

 

みどころは、「おれ、舅殿を殺しちゃったの?」と悟る瞬間です。

それは、お才が与市兵衛に持たせた財布と同じものとして見せた財布。その柄をみて、ふと不安になり、袂の財布と見比べると全く同じ柄。

〽さては夕べ鉄砲で撃ち殺したは舅であったか、はっと我が胸板を二つ玉で打ち貫かるるより切なき思い

 

おかるはお茶を汲んできますが、煙管を落とし、慌てた勘平はお茶を飲んでむせてしまいます。そこからオタオタにうろたえてしまうのです。

おかやのショック

 おかやのショックにも心を寄せて見ましょう。

かわいく、頼りにも思っていた婿殿が、夫を殺した。しかも夫はその婿殿のために娘を身売りさせ、金を調達したというのに。婿殿にあげるお金だったというのに。なんということだろう。責めて責めて責めたあげく、勘平は切腹をしてしまいました。

その後わかった事実は、勘平が殺したのではないということでした。これもまたねえ。自分を責めてしまいますよね。おかやはまっすぐで清らかな人だけに。はあ、辛い。

 

死んじゃっては、どうしようもありませんが、せめて敵討ちのメンバーに入れてもらえたということが、救いということで、六段目は終わりです。

 

ところでおかるは…

おかるは、父が亡くなったことも勘平が亡くなったことも知らず、祇園の街へ売られていきました。おかるがそれらの事実を知るのは、次の七段目になります。

 

いよいよ七段目。幕が開くと、そこからうっすら暗かった五~六段目からは一変して、豪華絢爛、華やかな祇園の一力茶屋に舞台が移っていくのです。

 

七段目はこちら!

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5月の上演時間や、そのほかの演目についてはこちら

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