「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

ドブ席(花外席)で観る歌舞伎、その楽しさとは

昨日、今年2回目の国立劇場に、通し狂言「四天王御江戸鏑」を見に行ってきました。席がドブ席だったので、ドブ席の楽しさについて「四天王御江戸鏑」に絡めて語ろうと思います!

 

先日は、「緊急事態宣言で休演になってしまうかもっ!」と思い慌てていったのですが、幸いなことに、休演にならなかったので今回は本来のチケットを取った日に、悠々と行ってきました。

いつも、チケットはケースに入れたまま、席は確認しないで劇場に行きます。劇場についてからやおら座席を確認。自分でとった席だから、大体わかっているんですが、時おり、「え?なんでここ?」と1,2か月前に、そのチケットをとった自分に問いたいような席のことがあります。

 

まさに昨日の自分がそれ。花横。しかもドブ席でした。

 

コロナ禍になってから、時々1等席をとっています。特に4部制のときは、歌舞伎座でも8000円でしたし、なんといっても、前後左右に人がいないことがわかっているので、まずほぼほぼ良いお席になります。何回か1等席をとって堪能していました。

(それまでは、歌舞伎座の1等席は、18000円なのでおいそれとは取れない上に、目の前が雲をつくような大きな人だったら目もあてられません。それなら2等席、3等席の一番前のほうがよく見えるので、そうしていたのです)

 

で、1等席をとることはあったけれど、それならたいていセンターブロック。どまんなかでした。

 

それが、昨日は1階8列11番という、なんだか見慣れない番号。花横。しかもドブ席。ドブ席というのは、花道より外側の部分です。ここは、1等席料金ですが、花道内側よりはよろしくない席というのが、一般的な考えです。私もそう思うから、あまりとったことはありません。

ドブ席はなぜよろしくないか。

なぜドブ席はよろしくないのでしょうか。

 

・センターブロックよりは、下手側なので、正面舞台は見えづらい。下手すると花道に立つ役者が邪魔になってしまうこともあります。

・花道の役者はたしかに近くで観ることができるが、役者は大体、上手側を見るので、ドブ席から見えるのは後姿ばかりになってしまう。ご尊顔を十分拝することができない。

まぶしい。花道を通る役者に上手側から強烈なライトが当たるので、役者を見ようにもまぶしすぎる。

 

というような点があるからです。近くで見たいなら、花横内側をとればいい。

なのに、なぜ?今手にあるチケットはこの席?

 

時々不思議なチケットの取り方をする自分を私は「秘書」と呼んでいます。

「秘書は、なぜこの席をとったのだろうか?」

要は自分がなぜその席をとったのか、すっかり忘れているために人がとったことにして遊んでいるのですが。記憶にないので秘書のせいにするのは、どこぞの国の偉い方もよくやりますね。(私は、そういう輩と同じではないですが)。

 

この日の国立劇場は、ドブ席から見る限り、内側の1等席は、まずまず入っていますが、ドブのほうは、すっからかん。私8列より前はふたりしかおらず、振り返れば後ろのほう~に少しいるだけで、私の後方にはほとんど人はいませんでした。前のめりだってできちゃう。とはいえ、内側席も空いているので、わざわざドブにしなくてもよかったのになあ。

けげんな気持ちながら席にすわったのですが、結論から言えばそのよろしくない点がすべて、よろしい点に180度転換したのでした。

ドブ席で観る楽しさその1 花横で見る、ド迫力の役者

 ドブ席に、ちょっと躊躇していた私ですが、ちょっと待てよ。と、先日この芝居を見たときのことを思い出します。この席だとあれがすごくよく見えるな。

 

「あれがよく見える」と期待に胸がふくらんだのは序幕の最後、土蜘蛛がよみがえって姿を現すところです。最初は作り物の蜘蛛が出ます。あれもなかなか見ごたえがありました。蜘蛛が見得までしたからね。

 

そして、ドロドロドロとともにすっぽんから出てきた菊之助の蜘蛛の精は、異常に美しかった。すっぽんから出て、花道を引っ込んで序幕は終わりです。その引っ込みがなんともふしぎな動きだったんですね。リズムがちょっと不確かな上下動。遠くから見ると上下動かな?と思うとほどの、わずかな上下動が不気味。あれがすぐそばで観られるじゃないか。じっくり見てやろうじゃないかと。「秘書よ。グッジョブ!」と楽しみになってきました。

 

いよいよ、その場面。大蜘蛛がシャカシャカっと出てきました。8本の腕はこうなっているのか。長めの足を役者の五体につけて、よくまあうまく蜘蛛っぽい動きになっていること。

はー!逆立ちまでしちゃったよ!

 

いよいよ大蜘蛛が引っ込み、菊之助扮する蜘蛛の精の登場です。

 

どろどろどろ~。うわ~。煙もモクモクで、花道横で見るのってすごい迫力です。

同じ1階でも、遠くの席から見るのと花横で見るのとでは迫力が断然違います。

「でかい!役者がでかい!」

いつもオペラグラスの中の役者を愛でている自分としては、その大きさが圧倒的で、マスクの下で口がぽかんと空いてしまいます。

 

本物のろうそくに導かれるように出てくる菊之助

これは面明かり(差し出し)といって、花道に出てくる登場人物の前後を二人の黒衣が長い棒の先に立てたろうそくで、照らすのですが、レフ板効果と炎の揺らぎで、ただでさえ美しい菊之助の顔がぼうっと白く浮き出て、えも言われぬ妖しき美しさ。

 

そして、気になっていた上下動。それは前に進むときにすっと少しだけ伸びあがり、次の一歩は少し沈み込みます。菊之助がちょっと伸びあがるときに、黒衣がすっと面明かりを下げる。炎は揺らぐ。沈み込んだ時には面明かりをすっと上げる。炎は揺らぐ。

 

この絶妙なバランスで、なんとも美しくも妖しい引っ込みの動きが演出されているのでした。

 

それにしても、本舞台に出ずに、花道の途中から出てきて引っ込むだけなのに、すごい存在感でしたね。

 

さて、ドブの楽しさは、すごく近く見られるというだけではありませんでした。近く見られるというのなら、まあ内側の席でも同じですからね。

 

ドブ席で観る楽しさその2 後から見るだいご味

 

ドブ席のよろしくない点として先にあげた「ほぼ後姿ばかりしか見られない」という点。これがなかなかオツなもの。というのは、普段の舞台でも写真でもテレビでもシネマでも、好きな役者はいつも正面から。後ろから無防備に見るというシチュエーションって、ないんですよ、意外にも。あるいはナナメ後ろから顎のラインから視線の先を共に見るなんてこともありません。

 

視線のその先には、相手役者がいる。相手役者は、まっすぐと自分を見ているという。まあ、こちらは花道に立っているわけではありませんからまっすぐ自分を見ているというのは少々語弊があるでしょうけれど。

 

たとえば、

 

バタバタと花道を駆けてきて、やあやあと見得。本舞台にいる某が、「なにを!」とこちらをにらむ。なんてところは、花道を駆けてきた役者越しに見る相手役者が、きりりとこちらを見つめています。うしろから見るだいご味というのが、ドブ席にはあるんですね。お尻やうなじを見ているというと、何かよからぬ感じですが(;^_^A

 

ドブ席で観る楽しさその3 役者とともに浴びるライト

 

ドブ席のよろしくない点として先にあげた「ライトがまぶしい」という点。これもまた、よき点がありました。

 

まぶしい!あんなにまぶしいだなんて。そのライトを浴びて、すっくと花道に立つ役者たち。なんて神々しいんでしょう(笑)。

私もライトを浴びてまぶしいけれど、役者とともに同じライトを浴びている。役者とともに、前を向いている(まあ、役者は前を見ており、私は役者を見ているので、多少目線は違いますが(;^_^A) 

 

同じライトを浴びていることで、今までの「舞台と観客」、「あちらとこちら」という意識がちょっと変わるような感覚があります。もちろん違うんですけれど、なんというか、役者を通して同じ方向を向いている快感といいますか、そんなものを感じたのでありました。

 

まあ、そんなわけで、今回はドブ席の楽しさを堪能しました。秘書のチケ取りがグッジョブでした(笑)

まだまだ歌舞伎座でも座ったことのない席はあります。それは桟敷席。いつか座ってみたいものです。(つうか8000円のうちに買っとけばよかった💦→小声)

 

今日の四天王御江戸鏑についてはこちらで!

 

 

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