先月の口上では、舞台裏に私たち観客を案内してくれた玉様。今月は何をしてくれるのだろう。いやがおうにも期待が高まる観客席です。
口上
ぜひ、これから行かれる方は、そのワクワク感のまま当日を迎えてほしいので、ここから以下は読まない方がよろしいかとおもいます。読んでほしいけど(笑)。
幕がするすると上がると、今月の玉様は、舞台いっぱいの美しい金屏風の前。
ご挨拶とともに、この日を迎えられたことへの感謝、観客だけではなく、大道具、小道具、鬘、照明、音響、すべての人に感謝を述べ、協力があってこの企画が成り立ったことをつたえてくれたことに、グッとくる。
そして、前月のように舞台から見た観客席が大写しとなる。わずかに4階席も見える。しかしその客席は空っぽだ。ここが満席となり、1800の期待に満ちた顔に囲まれながら役者たちが演技を披露できるようになるのは、いつのことだろう。
9月の口上の様子は、こちらで
すっぽんから下がって、舞台裏を案内
さて、今月の玉様は、先月ほどウキウキとした感じとはちょっと違って、なんというか少しモジモジした感じ。先月と同じ部分と違う部分があったが、やはり舞台裏を案内してくれた。今月はすっぽんから下がっていき、舞台下へ。平将門の滝夜叉の打掛を着てご案内。打掛を、まるでガウンでも脱ぎ着するように、無造作にはおったり、するるると抜いたりするだけで将門の滝夜叉姫になったり、阿古屋になったりするのがまたすごい。
まずは鳥屋口へ。ここは、一番思い入れのある特別の空間なのだろう、案内をするにも気持ちの入り方が違うようだ。
「役と、自分の生活の入れ替わる場所、支度をしたり、出待ちをしたり、水を飲んだり、塩で清めたり、人と話して気を緩めたり」とそんな場所なのだと教えてくれる。
主役の登場する梅ゼリ、金閣寺などの屋台など大道具も上がる竹ゼリ、奥にある松ゼリ。さらに5期になって、初めてできた一番奥の大ゼリや、盆の地下には中央に反対側に直結する道もできたとうれしそうな玉様。玉様にとって大切なものをいとおしそうに紹介してくれる様を見るのが楽しい。
「どうぞお入りください。恥ずかしいんですけれど」とご案内された先は
さて、今回エレベーターに乗って案内されたのは、なんと玉様の楽屋!大和屋の紋を染め抜いたピンク色の暖簾をさらりと開け、
「ここが私の楽屋です。どうぞお入りください。お恥ずかしいんですけれど」って案内されましたよ! 皆さん!
そこは、静謐な玉様の世界。40年使っている鏡台は40年使っていて次第にその年輪が美しく浮かび上がってきたとのこと。筆立て、筆、紅を入れる美しい器。水入れなどなど。すべてが静謐で美しい。それを大切に扱っている玉様の手も心もまた美しい。
豊国の版画を3枚張った屏風を見ながら、江戸の人たちはこうしていたんだなあと思いを馳せているとのこと。
「恥ずかしいのですが、この機にこうやって見ていただけることが」意味のあることだと思うというようなことをおっしゃる玉様。
恥ずかしいと2度も言っていた玉様。恥じらいつつも、素晴らしい楽屋を披露してくれたのでした。というわけで、先月のルンルン玉様に引き続き、今月はモジモジ玉様なのでした。
楊貴妃
さて、後半は楊貴妃
概況
玄宗は、楊貴妃を寵愛。しかしそのため、次第に内政を顧みなくなり、国は乱れ、反乱がおき、楊貴妃は命を奪われる。この悲劇をつづったのが、中国の詩人白居易の「長恨歌」。この長恨歌をもとに能役者金春禅竹の「楊貴妃」ができた。
玉三郎の楊貴妃は、白居易の「長恨歌」と能の「楊貴妃」を素材として玉三郎からの依頼により、夢枕獏作詞、唯是震一作曲、梅津貴昶振り付けで1991年に熱海MOA美術館の能舞台で初演。京劇の女方の手法、能、歌舞伎を融合させた幻想的な世界が広がる。
大輪の牡丹がゆっくりと花びらを開いていく花の速度を具現by夢枕獏
楊貴妃を失い、悲しみにくれる玄宗皇帝は、方士に命じて、楊貴妃の魂を探すように命じる。方士というのは、不思議な力を会得している人で、仙人のような人。
歌舞伎の玉三郎の楊貴妃は、この方士が楊貴妃の魂を捜し歩いているところから始まる。映像は2017年12月歌舞伎座で上演されたときのもので、方士は中車である。
このときの筋書で、夢枕獏は、「夢の速度」という文を寄せている。
坂東玉三郎は、人が見ることのできない、体感することのできない速度を、自身の肉体を使ってこの世に具現化する。たとえばそれは、星の速度であり、大輪の牡丹がゆっくりと花びらを開いていく花の速度である。
そして、ファーストシーンこそ花の速度であり、「夢に速度があるのなら、夢の速度である」と続けている。
本当に!京劇の女方の演じ方をも習ったという玉三郎の楊貴妃は、まさに、大輪の牡丹がゆっくりと花びらを開いていく様。さすが夢枕獏。玉三郎の楊貴妃を美しい文で表現している。が、最後、この文は、身もふたもない本音の一文で締められている。
『楊貴妃』の時間は、ぼくにとって至福の時間である。
仕事をさぼっても通いたい。
ですって(笑)。本音ですねえ。ワカリマス。。
大きい玉三郎と、小さな玉三郎がくるくると…
さて、先月の鷺娘は、最初と最後のみ本物が出てきて、あとは映像だったが、今回はほぼ(全部かな?その辺は定かではない)玉三郎も踊っている。つまり映像の玉三郎と本物の玉三郎が両方視界の中で踊っているのだ。
くるくる回る大きな玉三郎と小さな玉三郎。もちろん大きな玉三郎は映像で、小さな玉三郎は本物である。くるくるくるくるとまわる二人の玉三郎を見て「あの大きな玉三郎は本物。あの小さな玉三郎は、何?妖精?」と一瞬思ってしまった私は、相当イッチャッてたに相違ない。
カーテンコールにも丁寧に応えてくれた玉様。いつまでもいつまでも元気で踊ってほしいものだ。
登場人物
上演スケジュール・チケット値段・チケット購入場所
第4部
19時30分~20時30分
開場は開演40分前
休演は8日(木)、19日(月)
1等席 8000円
2等席 5000円
3等席 3000円
にて購入できます。