平成22(2010)年以降でも、この10月で10回目の石切梶原。大体毎年、日本のどこかの劇場でかかっている人気のお芝居なんですね。
今年はコロナ禍で4部制の中の1部として選ばれたのも、現状をスパーっと一刀両断!玉も飛び散る刀の光で打破!みたいな気持ちがあるのかないのか(;^_^A
こちらは、初めて見られる方は、予習しておいた方がよいですよ♪ ぼやーーーんと見終わることのないよう、内容押さえておきましょう!(^^)/
登場人物
梶原平三景時 今は平家方についているが、実は気持ちは源氏にある。
六郎太夫 娘の梢の夫が、軍資金300両を必要としているため、その調達を約束し、刀を売りに鶴岡八幡宮に来た。
梢 六郎太夫の娘。夫の真田文蔵は、源氏方。
大庭三郎景親 平家方の侍
俣野五郎景久 三郎の弟
剣菱呑助 死罪が確定している罪人。試し切りで殺される。
あらすじ
傲岸不遜な大庭俣野兄弟と、真摯で謙虚な梶原との対比
ちょんと浅葱幕が切って落とされると、そこは鎌倉鶴ケ岡八幡宮の前。梶原平三をはじめ、大庭三郎、俣野五郎兄弟のほか大名たちが、石橋山での合戦の勝利のお礼に参詣に来ているところです。
大庭兄弟と梶原は、同じ平家方ながらあまり仲が良くない様子。「先日の石橋山の合戦に勝ったのは、神のご加護によるもの」と謙虚な語り口の梶原に対して、俣野五郎は、「神仏などはあてにしない。自分の力で勝ったのだ」などと傲岸不遜な言い方。いかにもふてぶてしく憎らしい赤っ面です。兄の大庭三郎は、そこまであけすけな言い方はしないものの、やはり梶原とは距離を置いているようです。
名刀の目利きをする
そこへやってきたのが六郎太夫と娘の梢。梢の夫、真田文蔵の軍資金を調達するために刀を売りにやってきたのです。真田文蔵は、源氏方の武将です。
目利きを頼まれた梶原は、一目見てこれは名刀だとわかります。目利きの際には、息が刀にかからないように、懐紙を口にくわえる習いですが、思わず「見事!」と叫んでしまい、口から懐紙が落ちてしまうほど、それは素晴らしい刀だったのです。
大庭と俣野は、梶原の言葉を信じず、切れ味を試すために、人間二人を重ねて斬る「二つ胴」をしてみるように言います。ずいぶん乱暴な話ですね。
二つ胴失敗!? 名刀ではなかったのか? さにあらず
しかし、あいにく(?)罪人は一人だけ。これでは「二つ胴」はできません。すると、六郎太夫は自ら立候補。二つ胴の犠牲になって刀の切れ味を試してほしいというのです。
俣野五郎が試し斬りをしようとすると、「刀の目利きをした自分に断りもなく試し斬りをするのは無礼でござろう!」と梶原は一喝!普段にはないその権幕にすごすごと五郎はあとずさり。梶原が試し斬りをすることとなります。
大上段に振りかぶり、エイや!と斬ったものの、斬れたのは罪人だけで、六郎太夫を斬るまでには至りませんでした。
「なんだ。二つ胴はできないじゃないか。大した切れ味ではなさそうだ」と大庭と俣野は、あざ笑い帰ってしまいます。
がっくりきたのは六郎太夫です。名刀の価値が証明されず、軍資金の調達は失敗した。ならば死ぬまでと観念したところ、梶原に止められます。
梶原の本心。源氏に心を寄せる理由とは
梶原は、実は自分は源氏に心を寄せていたのだと、頼朝との出会いや源氏に味方する本心を語るのです。
石橋山の合戦で、梶原は落人を捕まえ、首をかききろうとしたところ、不思議なことに五体がすくんで動けなくなったそうです。やあれ、いかに?とみると、その落人は、智仁勇備わった実に立派な大将でした。それが頼朝だったのです。自分ごときが討つのは勿体ないと、梶原は頼朝の命を助けたのでした。それからつらつら考えると、今は自分は平家方だけれど、もともとの先祖は源氏の家臣であった。そして頼朝につくことを決心するのです。
そのために、たとえ世の中から非難され、指さされても悪口を言われても構わない。日頃から、そんな気持ちでいたため、六郎太夫が源氏方の人間であることが分かったときに、命を救おうと考えたのでした。
そして、刀は本当に名刀である故、自分が買いあげるといい、そばにあった手水鉢に、二人を手招きます。手水鉢の水面に映る、二人の姿。そこを大上段に構えた梶原がバサーっと刀を振り下ろすと、水面に映る二人の影は散り、なんと石でできた手水鉢ごと真っ二つに割れるのでした。
さすがの名刀と喜ぶ梶原。
「剣(つるぎ)も剣」といえば六郎太夫が「斬り手も斬り手」と掛け合います。この時、大向こうが「役者も役者!」と声をかけて大いに盛り上げていたそうですが、今は我慢ですね…。
六郎太夫は見事軍資金を手にすることができ、梶原は、名刀を得、二人を伴い、意気揚々と引き上げていきます。
めでたしめでたし。
梶原は、真の武士の鑑なり~!
見どころ
なぜ、梶原は六郎太夫が源氏方とわかったの?
さて、六郎太夫は自ら名乗っていないのに、なぜ梶原には六郎太夫が源氏方とわかったのでしょう。いつわかったのでしょう。心の動きに注目です。どうしてもしゃべっている人、動いている人に注意が向きがちですが、すばらしい名刀を見て唸る、何かに気づく。じっと見る。など梶原の少ない動きにも注目です!
名刀をみて、その素晴らしさに感嘆するとともに、刀に「八幡」という文字が入っていることに梶原は気づきます。チラリと六郎太夫に視線を送ります。「源氏の守護神は、八幡神、さては…六郎太夫は源氏方のもの!」と気づくのですね。
二つ胴のときに、ハラハラと上から落ちる花びらは?
梶原が大上段に刀を振りかぶった!その時、上からハラハラハラと散ってくる梅の花。これは、何もうっかりザルからこぼれたわけではありません。名刀の霊気に当たって落ちてきたのです。今でいえば「ピカ―!」と当たるスポットライトのような演出効果だったのかもしれませんね。ただし、これは橘屋型と言われる型でのやり方であって、播磨屋型では梅の花は落ちてきません。後で詳しく説明します。
梢が行ったり来たり、何をしているの?
途中で、梢が家に帰ってきたり、戻ってきたりしますが、それは何でしょう。
六郎太夫は、罪人が一人しかいないことを知り、自らが二つ胴の犠牲になろうとします。しかし、娘の目の前でそれをやられては、娘がかわいそうすぎる。そこで、理由をつけていったん家に帰すのです。「折り紙(鑑定書)を取りに行け」と言って帰すのですが、そんなものは実はない。梢はまた戻ってきますが、その時は、父親は斬られる寸前。必死に大名や大庭兄弟たちに命乞いをします。大名たちは、辛そうに視線をはずしますが、俣野五郎はふん!とどこ吹く風。全く冷たい男です。
六郎と梢の親子の情けも、梶原の心を動かしていくのですね。
試し切りされる罪人の身の上話とは?
酒で身を持ち崩した呑助の身の上話は、酒尽くし。日本酒の名前がたくさん出てきますがわかりますか?おもしろいですね。本人はあっけなく死んでしまってお気の毒ですが…。
概況
1730(享保15年)2月、大阪の竹本座で「三浦大助紅梅靮」の外題で初演された人形浄瑠璃。作者は長谷川千四・文耕堂。歌舞伎では同年8月初演。現在上演されるのは、この中の「石切梶原」の部分のみ。お家によって、型が変わります。
播磨屋型、橘屋型、上方で違う石切梶原
先ほど書いたように、エイヤー!っと二つ胴を斬る場面でハラハラと梅の花が落ちてくるのは、松嶋屋も継承している橘屋型。そして、大上段に振りかぶって、バサーっと斬りますが、播磨屋型では、大上段ではなく、ズコーっと手前から遠くへ押し出すような斬り方です。断然派手なのは橘屋型。
最後の石切の場面も、橘屋型は、手水鉢の後ろに立ち、六郎太夫と梢を手水鉢に手を添えさせて、バサーっと斬り、手水鉢を飛び越して前にぴょんと出てきますが、播磨屋型は、観客席を背にして、ズンと斬ります。親子は横にいて、手水鉢に手を添えたりはしません。
橘屋型は、万事派手。播磨屋の初代吉右衛門は、後ろから手水鉢を斬ってぴょんと飛び出てくるやり方を「桃太郎みたいじゃねえか」と嫌って、今のやり方にしたそうです。だから写実的ですね。
どちらが好きかと聞かれると困りますが、今月の梅の花がハラハラと落ちる中で大上段に振りかぶった仁左衛門、めっちゃ格好よかったのは、事実です!お写真も買いたいですね!!←その気、満々!
でも吉右衛門の情あふれる石切梶原も好きです!写実的な播磨屋型では、二つ胴の前に梢がくどきをしている間に、供の者を呼び、刀の柄にぐるぐると黒いひもを巻き付ける演出も丁寧ですね。
たまたま今日、播磨屋型の石切梶原をDVDで見ることができて、すごく違うんだなあと再確認できました。
さらに、舞台は鶴ケ岡八幡宮の前でしたが、上方でやる場合は、星合寺の境内となります。
石切梶原は、演じる役者によって3種類の演出があるのですね。
2020年10月歌舞伎座では、橘屋型の石切梶原を、以下の役者が演じます。
梶原平三 片岡仁左衛門
大場三郎 坂東彌十郎
俣野五郎 市川男女蔵
滋味あふれる片岡仁左衛門丈の、梶原。
婿殿のために、命も投げうって軍資金を作ろうとする一途な六郎太夫を演じる歌六。
親孝行で心優しい梢は、片岡孝太郎。
大庭三郎は、朗々とした声と、立派な体躯の坂東彌十郎。
いずれも芝居巧者な面々が、舞台を盛り上げます!
さあ、GOTO歌舞伎座!スパー!
終わって外に出たら、もうこんなに暗くなっていました。秋の日は釣瓶落とし。
上演スケジュール・チケット値段・チケット購入場所
第3部
16時20分~17時29分
開場は開演40分前
休演は8日(木)、19日(月)
1等席 8000円
2等席 5000円
3等席 3000円
にて購入できます。