2月の歌舞伎座は、いつもとちょっと違う雰囲気です。
木挽町広場、歌舞伎座内部、特に3階に地口行灯が灯されています。楽屋にも灯されているそうですよ。
何とも言えずいい雰囲気です。地口行灯というのは、祭礼のときに飾られる行灯で、要するに駄洒落と絵の遊びなんですけれど、味があって私は大好きです。
むずかしいことが書いてあるわけではないですよ。よく見てみて。
▲えんましたの力持ち
縁の下の力持ちならぬ「えんましたの力持ち」えんま様の舌が、そんなに!?
大金もちじゃなくて、大きな甕をもっているだけかーい。
瓢箪から駒じゃないのかーい。
クスっと笑える地口行灯。楽しんでみてくださいね。
さて、今月の歌舞伎座は尾上辰之助33回忌追善供養。尾上辰之助という人は、本当にかっこいい人でした。当時、三之助と言って、辰之助、菊之助、新之助 が歌舞伎役者のスターで、幼き私は、辰之助が一番好きでした。今でも昔の録画を観るとかっこよくてほれぼれします。その父、松緑もおおらかで素晴らしい名優でした。
しかし、辰之助は昭和62年3月に40才でなくなってしまいました。今年はその33回忌に当たるということで、辰之助にゆかりのある演目やゆかりのある人が演じています。
辰之助長男である当代松緑が、中心となり、ひと月の追善興行を盛り上げます。松緑は、まだ12歳で父を亡くし、さらにその2年後には祖父である2代松緑を亡くし、後ろ盾を失いながら苦労して精進してきました。
昼の部の「義経千本桜すし屋」と「暗闇の丑松」、そして夜の部の「名月八幡祭」が、そのゆかりのある演目としてかかっています。また、夜の部の「當年祝春駒」では、当代松緑の息子である左近クンも曽我五郎のお役をりりしく勤めています。
「暗闇の丑松」は、丑松と女房お米の物語ですが、以前お米役を演じた菊五郎(当時菊之助)が、今回丑松を演じました。菊五郎の深い演技力、原作の持つ厚みのあるストーリー、宿場の女郎屋、湯屋などの情景の美しさ、などなど、見どころがたくさんあります。
30年前にはお米を演じた菊五郎は、当時は女方として辰之助の相手を演じることが多かったのですが、辰之助の死後、次第に立役が増えて行った(それだけが理由じゃないと思うけれど)とも言われています。可憐で薄幸なお米を演じていた菊五郎が、今回は丑松。それも年月の積み重ねを感じられて、胸にずんとくるものがあります。暗闇の丑松の古い映像を少し観る機会がありまして、菊五郎の可憐さにノックダウンしました。
比して夜の部の、「名月八幡祭」。
30年以上前に共演した辰之助と玉三郎、仁左衛門。今回、辰之助の長男である松緑が父親の演じた縮屋新助を演じます。相手役は、当時辰之助と共演した玉三郎と仁左衛門です。この舞台で、玉三郎と仁左衛門は、30年前の若々しさそのものです。
男を悪気なくもてあそぶ三代吉。ヒモの見本のような三次も、20代30代のヤンキーに見えます。
一体「時」ってなんなんだろう?という不思議な感覚に陥ります。
30年前のお役とまったく違う菊五郎もすばらしいが、まったく同じの仁左玉もすごい。もうなんと形容していいかわからないレベルです。
これもまた、歌舞伎の魅力のひとつなんですね~。
ぜひとも、昼でも夜でもいいから観て!と言いたい2月の歌舞伎座です。
役者の皆さまも、最後まで駆け抜けてくださいませ!
「名月八幡祭」のあらすじとみどころについてはこちらです。