去年の7月以来という中村歌昇丈の歌舞伎夜話。私は今回が初めてでしたが、実は花道会のトークには参加したことがあります。あれはいつだったかな。そのときより、ずっと中身が濃く、ものすごく成長されたんだなと感じました。
歌舞伎座ギャラリーは現在、来月歌舞伎座で行われる「楼門五三桐」の色彩鮮やかなセットが正面を飾っていますがそれを意識してかせずか、真っ黒なセーターとパンツで、とてもくっきりと美しくお姿が映えておりました。
戸部さんは、なぜかダーツの柄のシャツでした。
出演演目について
【8月双蝶会・関扉】
昨年5月に関扉はやりたいと思っていた。体力的にきついし、しかも1日2回ということで大変なことはわかっていたが無謀なことに挑戦しようと思った。
昨年の10月には正式に決まり、吉右衛門丈にも「大変なお役だぞ。100%出してもむずかしいぞ」と言われたけれどもそれでもやりたいと申し出た。
振りは、ご宗家の振り付けで、花道では傘ではなくまさかりを持つもの。
実際にやってみてますますすごい作品だと感じた。
歌舞伎らしく、いい意味でばかばかしい。仕方話があったり廓話があったり風情もある。やってみてさらに好きになった。いつかまたやりたい。
丸く丸く踊れと言われて最後までできなかった。踊りの基礎をもっとしっかりやらなければと思った。
体力を使うので、自分自身は燃焼しきってやり切った感はあるが、それはそれだけであって…。
関扉の衣裳は暑くて重くて。それでも動くからまだよくて、昨年のども又のときは止まっている時間が長くて、暑かった。
戸部「どんなふうに研究しましたか?」
いろいろな人の関兵衛を観ました。関兵衛は、自分にない大きくておおらかさのあるキャラ。そこに惹かれる部分がありますね。
難しかったところは酔っぱらって出るところ。酔っぱらって歩けないってことはあまりないじゃないですか(笑)。そういうことがあったとしても覚えてないし(笑)。
眼、体、頭でわかっていてもまだできない。あとは余裕なのかな…
【9月鼓童】
戸部「幽玄という世界。評価が分かれるところでしたが、いかがでしたか?ぼくはおもしろかったですよ!もちろん」
歌昇「どこが?」
戸部「鐘供養のところ」
歌昇「俺が出るところじゃないんか~~~い!」
爆笑
戸部「古典の原作を知っている人と知らない人とでは感じ方が違うかもしれませんね。いかがでしたか」
歌昇「うーん。僕らが今まで考えてきたものと新しいことを、同時にしている感じでした」
たとえば、カウントとりながら踊るのも初めてのこと。「石橋」はシンバルに合わせた。
「羽衣」は舞台の使い方に驚いた。こんな風に使えるんだ。盆の前を歩くことも初めて、こういうこともできるんだ。こうやって解釈するんだという驚き。
鼓童の人たちは、すごい。一音一音の響きが心臓に響くような音ですごい。聞いたことがないような音が出てくる。
【玉三郎丈について】
とにかく、こだわりがすごい。照明へのこだわりがすごい。舞台稽古も、こんなところまでというような細かいところまで。
吉右衛門のおじさまと玉三郎おじさま(お兄様だったか??)どちらも、同じことを言っていた。毎日切符を払ってきていただくお客様のために、自分たちは命を削って舞台に立たなければいけない。自分はまだそこまでの意識はないというか、体も動くので勢いでやっているという感じでまだまだ。お二人は、精神力を摺り切るまでやって表現している。
9月は作品・座組で勉強させてもらって、本当に良かった。中身の濃い秀山祭だった。
【6月 国立劇場 連獅子 】
あ~。もう遠い昔みたい。やればやるほどむずかしい。毛振りは、父といっしょにそろえることを意識しすぎたかな。9月の石橋での毛振りは、また全然違ったんで。
キホン毛振りは、上手の人に合わせるもので、父に合わせようとかたくなになりすぎたかな(と反省モード)
戸部「実際の親子でやるってのは、どう?」
鼓童と、松緑さんとしか踊ったことがないので、あまり比較はできないけれど、言わなくてもわかるところはある。
しかし、関扉より、きつかったな~~。
【播磨屋の一員として】
自分の考え方、感じ方に変化している自覚はないが、吉右衛門のおじさまがどんどん遠ざかっていく感じ。とてつもない頂き。
1月の引窓も、やんちゃしていたってところまで、全然表現できなかった。
勧進帳 四天王では、先頭で、気づいたら、若手を引っ張っていく役になってきている。きっかけは先頭が取ることが多いので気を遣った。
早く弁慶をやりたい。富樫をやりたい。
【来年の浅草】
この日の時点でまだ演目が決まっておらず、拵えで作る予定のチラシもとん挫。
もう松竹さんお願いだから、正月5座も開けないで。人がいなくてカッツカツなんだから!
昨年の派手目のパンフレットについて。
キラキラしたものが降っていましたが、あれは、目の前の至近距離に大型扇風機。左右にステップの上からはなさかじいさんのように金ぴかを降らすスタッフがいて、連写ですよ。
戸部 浅草は年に一度の特別な感じですか?
楽屋も日ごろから変わらないし、そんなにぶれはない。というか播磨屋の一員としておじさんの芸を少しでも継承…というのもおこがましいが、少しでも喜んでもらいたいという気持ちです。
以下Q&A
【お子さんに関して】
お子さんには歌舞伎役者になってほしい?
自分自身強要されていなかったので…(無理やりやらせるつもりはない)
が、最近喜んでる。自分が白塗りしててもわかってくれてる。
でも舞台に立つことを思うと想像しただけで胃が痛い。理想としては、花道から種之助が連れてきてくれて、自分は後見したい。
【1カ月休みがあったら】
パワースポット巡りとかしたいな。
戸部「吉野山に旅行に行くとか?」
ああ、そういうのはまったく興味がない。どうせ行くなら日常では味わえないインドとか行きたいな。
【楽しさはどういうときに感じるか?】
舞台に出ている瞬間だけ。でもお稽古が苦であると感じたことは一度もない。(厳しくされても)どうにかしてやろうと(おじさまや先輩が)思ってくれることがうれしい。
【種之助の女方について】
かわいいっしょ~。
器用な子やなーと思います。僕には女方のお呼びがかからないもの。
【女方で好きな役者は】
【いつかやりたい】
弁慶
熊谷
松浦の太鼓
貞任
土蜘蛛
逆櫓
※もうひとつ何か言っていたけれど聞き取れなかった
これらに出られるよう、常々準備はしている。そういうつもりで観ている。あー。河内山のツラネもよかったなあ。
【双蝶会で得られたこと】
できていない自分への反省
【吉右衛門丈を漢字一言で表すとしたら】
※これについては、さんざん「うーん、うーん」と悩み、「保留」といって後回しに2回くらいし、その後もまた振られて「うーん、うーん」と悩み、「戸部さんだったら何?」と聞き、
戸部さんに「雄」かなとあっさり言われ、「おお」とのけぞり、またさんざん悩んだ挙句…
「山」と絞り出しました。
「木があってー、川があってー、大きくてー、あーでも、もっともっと違うんだよなー」
【今年の自分】
毎月出ることができた。毎日教えて下さることがありがたい。
【来年の自分】
今年より進化した歌昇をお見せしたい
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ということで、真摯で吉右衛門丈に対する尊敬と愛にあふれた歌舞伎夜話でした。
1月の浅草に始まり、今年1年の濃さは本人も言っていましたが、みっちりしていてもう夏以前のことが遠い昔のように思われるほど。8月9月と濃密な時間を過ごし、一段と成長を遂げているなと感じました。
成長すればするほど、吉右衛門の偉大さがわかる。
だからこそ「どんどん遠くなる」という言葉も出てくる。
いつまでも追いかけ続けて、めげずに大きなお山に登って、頂きを目指してほしいものだと思いました。