2018年5月団菊祭夜の部の一番目は「弁天娘女男白浪」です。ヤッホー。
■配役
南郷力丸 左團次
忠信利平 松緑
赤星十三郎 菊之助
日本駄右衛門 海老蔵
鳶頭清次 松也
浜松屋宗之助 種之助
弁天娘女男白浪は、河竹黙阿弥作。文久2年(1862年)作です。当時19歳の5世尾上菊五郎が演じて大当たりをとり、今日まで人気の演目として上演されています。
1862年は坂下門外の変、和宮降嫁、生麦事件なんてあった年です。桜田門外の変は、その2年前でした。そんな世情不穏なころにこの素晴らしい舞台ができました。
■カンタンあらすじ
悪党5人組のうちの二人がゆすりに入るのが、序幕。
入った先の店と、悪党ふたりは不思議な縁で結ばれていますが、それが明らかになる「蔵前の場」は、今回カットされています。稲瀬川勢揃の場では、5人がきれいにそろって、名乗りをあげます。一人ずつの出囃子ならぬテーマミュージックが違うので、役柄に応じたお囃子などの下座音楽にも耳を傾けてくださいね。衣裳にもご注目。なんでこんな格好しているんだよなんて茶々を入れずに、美を堪能してください。粋だよね。
2幕目は、序幕ととても違う点があります。それは、セリフがほとんどないこと。あれほど朗々と美しいセリフを聞かせていたのが、今度はセリフはほとんどなくて、立ち回りで見せる、魅せる、魅せる!
追い詰められた弁天小僧菊之助が立ち回りの末、立腹を切ります(立ちながら切腹)
山門の場、滑川土橋の場へとつながって終わります。
もう少しわかるともっと面白いという記事はこちらに書きました
■見どころ
■序幕の見どころは、何と言っても河竹黙阿弥の流れるような七五調のセリフが次々と繰り出されるところ。お姫様のふりをしていた弁天小僧が、ばれて、「兄い。もうばれちゃー、いられねー。もうしっぽを出しちゃうぜ」とスパッと男に戻って居直るところが、すばらしい。御年75歳の7代目菊五郎。尾上家伝統の芸ですね。
お姫様のときはかわいらしい声、手、爪なのに、男になったとたん、どすの効いた声になり、にょっきり伸びる腕に足。
見逃し厳禁ですよ。南郷力丸との息の合ったところも楽しくて。
■2幕目の見どころは、その立ち回り。75歳(しつこい)は、動くたびに腰がメリメリ言うなんて言っていましたが、まったくそんな様子はありません。迫る追手を切り捨て、切っては捨て、切っては捨て、見得を切り、くるりと回って、また追手を落とし。無駄のない動き、手、足、肩、視線。
立ち回りを演じているのは、極楽寺の屋根の上。そこから、大切な重宝「胡蝶の香合」を落とされてしまい、観念して切腹をして果てるのです。
■そして、もう一つの見どころは、大道具です。
がんどう返し(どんでん返し)と言われるものがそれですが、弁天小僧が腹に刀を突きたてると、屋根がぐぐっと後ろに傾きます。90度、後ろに傾いて、弁天小僧は我々の視界から去っていき、今度は下から桜の山が現れ、山門がせりあがって来るのです。
これは、ただ舞台が下からせりあがって来るだけとは違います。90度後ろに下がって、少しずつ屋根と弁天小僧の姿が視界から消えていくのは、たとえば、今映画などでドローンやヘリコプターが撮影するような、視線なんです。
屋根の上にいた主人公を空の上から見ていたカメラが、グーンと下に降りていく。鳥のような視点で、何秒かのちに、主人公を下から捉える。そういうカメラワークっていくらでもあると思うのですが、それなんですよ。
ミッションインポッシブルですよ、バーフバリですよ。
尊王だ、攘夷だって時代に。
「どうやったらお客をびっくりさせることができるだろうか」と朝から晩まで、それしか頭になかった人たちがいっぱいいたんでしょうねえ。すてきです。
というわけで、実は弁天小僧の親は…とか、日本駄右衛門の子どもは…とかサイドストーリーがあるのですが、それがカットされていても、十分楽しめるので、頭をまっさらにして楽しんでくださいまし!
もっとわかるともっとおもしろいという記事はこちら!
あ。一幕見は、もちろんこの弁天娘女男白浪でやります。
5月21日(月)でござんすよ。マクミツアーのときは、そのサイドストーリーについても説明しますので、ぜひご参加下さいまし。