6月の歌舞伎が始まりました♪
木挽町広場には、短冊が飾られていました。
さて、本日は昼の部を観てきました。
まずは「名月八幡祭」。
登場人物
☆美代吉―(演じるのは笑也)
深川でも指折りの人気を誇る芸者。三次にくびったけ。三次につぎ込みすぎて借金で首が回らない。
☆三次―(猿之助)
しょうもないヒモ野郎。美代吉にいつも金の無心をしている。
☆新助―(松緑)
田舎から出てきた真面目人間。
☆藤岡慶十郎
とってもやさしい旗本。
この話は、もともとはお家騒動や、主人公の二人の因果な話といろいろ複雑だったものを、素朴な田舎青年が芸者に振り回される話に焦点をおいて、大正時代にシンプルに作り直されました。だからとってもわかりやすくて、おもしろいですよ。
美代吉って芸者が、ぶんぶん男を振り回すんです。人のよい武士も、そして悪人として登場する三次も美代吉にあってはかないません。ましてや、田舎から出てきた純朴そのものの新助であればなおのこと…。
で、騙された新助が気が狂って、祭りの日に美代吉を殺すってお話です。
わかりやすいでしょ?
三次にいつも金の無心をされて、借金でがんじがらめになっている美代吉に「そんな男にかかずらわっていてはいけないよ」と鷹揚な殿様が手切れ金としてくれたお金を、「やったー。お金はいった!」とさっそく三次と飲みに行っちゃう美代吉。
観客である私たち、心底美代吉を憎むことはできません。奔放な美代吉にちょっとだけ憧れちゃうからでしょうか?
一方、美代吉にちょっといい顔をされて、借金をねだられて、すぐにその気になる田舎の青年新助のことも、観客である私たち、誰も「馬鹿だねえ」とは言えません。誰もが新助みたいな純粋な気持ちを、少しは心の奥底に持っているからでしょうか。
ヒモ体質の根っからの悪人三次。これまたなんかクールで憎めません。現実にいたらちょっと付き合いたくない人ですけれど…(^_^;)
新助は、心底好きになってしまった美代吉のために田畑を売ってお金を作ってきたのに
「あ。もう金できたからいらない。え?一緒に住む?んなわけないじゃん。」と美代吉に突っぱねられてしまいます。
うおーと泣き崩れる新助に対して「ん?なんか悪いこと言った?」程度のリアクションの美代吉。そして、クールな三次。舞台上のこのギャップがたまりません。
ついに気が狂って、祭りの日に新助は美代吉を殺してしまいます。人がとても多く出た祭りの日。永代橋が崩落したそうな。これは史実だそうです。
この大詰めの場面は、本水(舞台上で本当の水を使った演出)で、土砂降りの雨で、凄惨なはずですが、美しい。
すべてが終わったあとに、馬鹿でちっぽけで猥雑でどうしようもない人間たちをじっと眺めていたかのように、大きな月がぽっかりと夜空に浮かびます。
純朴な青年が愛想尽かしをされて逆恨みをして殺すといえば、「籠釣瓶」が有名ですけれど、美代吉は八ツ橋より、もっとずっと天性の自由奔放な小悪魔です。すぐいい顔しちゃうし、すぐ忘れるし、またすぐいい顔しちゃう、誰にでも。
しゅんとしたと思ったら、お金が入ればすぐに元気百倍。立ち直りも早い!
人間味あふれるというか、パワフル。生命力を感じるヒロインです。
名月八幡祭りの上演時間は1時間47分。上質の映画を観るように楽しんでみてください。